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犬養裕美子の冒険するレストラン

種類豊富なアバ(内臓)料理を味わおうと お客が詰めかける中目黒の小さなビストロ

「Bistro Tatsumi」

2011年10月11日
「Bistro Tatsumi」

アバジュレ600円。最初に泡か白で味わうなら、この料理から。口の中で旨味が静かに広がる。上品な前菜だ

「Bistro Tatsumi」がオープンしたのは震災直後の3月14日。シェフの広瀬亮さんは、毎日厨房に立ちながらも不安で一杯だった。カウンターが7席、テーブルが6席。間口が小さく目立つ店ではなかったせいもある。

しかし開店直後からインターネットや口コミで話題になり、1カ月後には人気店の仲間入りを果たした。理由は、広瀬シェフが2年半のフランス修業で会得したアバ(内臓)料理にある。「周辺にはフランス料理店や肉をテーマにしたダイニング、専門店が多い。でもアバ料理の店はない。それをアピールするためにメニューを組みました」。黒板にびっしりと書かれる料理の実に4割が内臓を使っている。

トリッパ、センマイ、アキレス腱、大腸、シビレ、オッパイ、豚足など新鮮な国内産内臓類を常時12種類ほど仕入れて料理する。

「内臓は臭いというイメージがありますが、それは下処理をきちんとしていないから。ていねいに掃除をし、下茹でを何度もするなど、手をかければ嫌な臭いは残りません」。

代表料理として、広瀬シェフがオススメするのがアバジュレ(600円)。テット・ド・フロマージュという豚の様々な部位を固めた料理だ。これをフレンチとは思えない値段で提供している。耳、トリッパ、センマイなどを牛のコンソメでゼリー状のパテに固めているので、口の中でゼリーが溶けると旨味とコクが広がる。内臓料理とはいえ洗練された味が楽しめる。

豚セルベルバリバリ焼き(豚の脳みそとチーズを薄い生地で巻いて揚げたもの。1100円)、ピノキオ(豚の尾の煮込み。1100円)、スーパーチャーハンZ(トリッパ、豚耳、きのこ。980円)なども人気だ。マニアックなファンからは「珍しい内臓料理を、もっとしっかり食べたい」といったリクエストも寄せられる。

「Bistro Tatsumi」

Bistro Tatsumi
東京都目黒区上目黒2-42-12 TEL:03-5734-1675
営業時間18:00~翌2:00(土曜は12:00~14:30も営業)、日休

オープンから半年が過ぎ、ほとんど毎日、予約で席が埋まるようになった。客単価も当初は5000円前後だったが、今では8000円までアップしている。

秋に向けて、広瀬シェフがメニューに取り入れるのは、フランス料理の王道・フォワグラやトリュフである。最初は内臓料理、徐々にフレンチらしさを全面に出そうという構想だ。本格フレンチでありながら、ロックをBGMに、カウンターでリラックスして食事を楽しめる。それがTOKYOフレンチの最先端なのかもしれない。

犬養裕美子

犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)レストランジャーナリスト。東京を中心に世界の食文化やレストランの最前線をレポート。農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」審査委員。飲食施設のアドバイスなども行う

(写真=前田宗晃)