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犬養裕美子の冒険するレストラン

若い音楽家が料理をサービスし演奏もする 代官山にできた“ミュージック・フレンチ”

「ラ・ジュネス代官山」

2012年3月13日
「ラ・ジュネス代官山」

演奏は20時15分と、21時15分から始まる。クラシックやジャズなど、演目はその日のメンバーによって変わる

昨年10月にオープンしたフレンチ「ラ・ジュネス代官山」。小さい店が流行りの今、ホール42席、個室2部屋、バーコーナー13席というゆとりのある空間とユニークなコンセプトが際立つレストランだ。店名はフランス語で“青春”の意味。ここにオーナーの黒田善孝氏が抱いた永年の思いが込められている。

黒田氏は大阪の黒田電気という会社の元社長。社長業に区切りをつけた後、ずっと思い描いてきた“音楽が楽しめるレストラン”を実現すべく動いていた。それがこの店だ。神戸ポートピアホテルの名店「アランシャペル」(今年3月に閉店)で20年料理長を務めた小久江次郎氏をスカウトし、旬の素材を使ったヘルシーなフランス料理を提供。前菜やデザートはテーブルでワゴンサービスをするなど本格的なレストランである。

スタッフたちは皆若く、その颯爽とした身のこなしは、それだけで場を盛り上げる。驚くのは、いきなり演奏タイムが始まること。サービスをしていたスタッフがホールの真ん中に集まり、すばらしい歌声と楽器の演奏を披露する。彼らはサービスだけでなく音楽も提供する“ミュージックキャスト”。黒田氏が起用したプロの音楽家なのである。

「ラウンジは生演奏を楽しめますが、プレイヤーは時間になってから登場し、終わるとすぐに帰ってしまう。音楽好きな人はプレイヤーと音楽の話をしたいんです。一方、音楽家もプロで活躍できる人はごくわずか。音楽に関係ない場所でアルバイトをしてしる人も多い。それなら音楽と仕事を両立できる環境を作ればいいのではと思ったのです」。

「ドゥエ・リーニュ」

「ラ・ジュネス代官山」
東京都渋谷区猿楽町11-1 ラ・フェンテ代官山アネックス2F TEL:03-6416-4141
営業時間11:00 ~13:30L.O.、18:00 ~21:00L.O.、無休

オーディションには予想を超える人数が集まり、オープニング時に登録したスタッフは35人。現在は40人に増えている。自らピアノを演奏し、スタッフのスケジュール管理もする濱四津景子さんは、「最初はサービスという、経験のない仕事に不安を覚える人もいました。でも、周りの仲間も同じ立場。ここに来れば仲間と会えるし、励まされます」。

サービスは技術もさることながら、場を読む力や思いやる心が大切だ。飲食の素人といっても、真摯に物事に向き合う姿勢は、音楽で十分培われている。ミュージックキャストたちは好きな音楽を続けつつ、観客と直に接するサービスの楽しさを感じているようだ。

質の高いスタッフの不足が課題である飲食業界だが、人材は思わぬところに隠れているのである。

犬養裕美子

犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)レストランジャーナリスト。東京を中心に世界の食文化やレストランの最前線をレポート。農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」審査委員。飲食施設のアドバイスなども行う

(写真=前田宗晃)