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犬養裕美子の冒険するレストラン

パリっ子を引き付ける“フランコジャポネ” 「料理もサービスも日本人」が受けている

abri(アブリ)

2013年4月9日
abri(アブリ)

夜のコースに出てくる若鶏のグリル。炙り(アブリ)料理がメインだ!

ここ数年、フランスに日本人シェフの店がずいぶん増えた。日本人は器用で繊細。2ツ星、3ツ星のレストランでも重要なポストを務め、オーナーシェフとして活躍する人もいる。2012年版ミシュラン1ツ星「レストラン・ケイ」「ソラ」、日本人初の2ツ星「パッサージュ・サンカントワ」などは、いずれも30代の若いオーナーシェフの店である。

今回採り上げるのは昨年8月にオープンした「アブリ」。ここは沖山克昭シェフとサービスの森下亮氏が共同経営しており、スタッフもすべて日本人。11月に発表されたフーディング賞(味だけでなく五感で楽しもうという賞)で「ダムール(愛すべき店)賞」を受賞した実力派である。

沖山シェフは2001年にスイスに渡り、その後パリへ。ロブション氏が16区に「アガペ」をオープンさせたとき、スーシェフに抜てきされた。森下氏は2004年に渡仏し幅広くサービス業に携わってきた。「二人とも10年以上パリにいたので、ここで自分たちのしたいことを表現しようと独立を考えたんです」と森下氏。コンセプトは“おいしくて、サービスがよくて安い。自分たちが気楽に行ける店”である。実際、昼は前菜2皿、魚か肉、デザートで22ユーロ。夜は前菜3、魚、肉、デザートで38.5ユーロという値段で提供している。

前菜、メーン、デザートで40ユーロ前後の店が多いなか、この皿数は驚くべき充実度だ。内装、ユニホーム、パン、食材など、可能な限り日本人ネットワークを駆使して、日本人ならではのセンスを凝縮させた。それがいわゆる和風の表現ではなく、パリに自然になじむスタイルであるところがポイントだ。パンにしても、実は有名ブーランジェリーに勤める日本人が、ここのためのレシピで焼く。少しもっちりした食感はフランス人にとっては“ちょっと変わっていておいしい”となる。フランス料理の中に日本人の知恵や感性が自然に加わっているのだ。

オープンキッチンの中では沖山シェフとスーシェフの澤地はるかさんが「あうん」の呼吸で料理を仕上げていく。奥では落合晶子さんがお菓子を焼いている。女性の活躍にも目を見張る。今までは海外で独立をするのは難しいと言われてきた。しかしフランスのように成熟した食文化を持った国だからこそ、外国人の店でも、その料理、内容が彼らにとっても納得のいく魅力的なものなら、受け入れる。ここにこそ、本場フランスで勝負する意味があるのだろう。

abri(アブリ)

シェフとスタッフ。日本人ネットワークを活用してパリの人気店になった

犬養裕美子

犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)レストランジャーナリスト。東京を中心に世界の食文化やレストランの最前線をレポート。農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」審査委員。飲食施設のアドバイスなども行う

店舗DATA abri(アブリ)92 rue du Faubourg-Poissonnière 75010TEL:33(0)1 83 97 00 0012:30~、13:45~、19:30~、日と月の夜休ランチ、火~金22ユーロ、月と土はサンドイッチ。ディナーはコース38.5ユーロのみ