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女子大生あすみの飲食店再建日記

第11話 俺らがいない方がやりやすいだろ

2012年1月11日
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一大外食チェーンの経営者・小川昌一郎の一人娘・あすみの夢は、父の跡を継ぐこと。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始め、店舗改善のための提案をしたあすみに、ベテランスタッフたちは反撃し、店を辞めると言い出した。どうすればいいか分からず悩むあすみに、父は「彼らを立てろ」とだけアドバイスした。

あすみは、そこまで考えて、あのときの侑哉の言葉を思い出した。

「何で新人アルバイトの提案で僕らが動かないといけないんですか?」

気づいてしまえば、単純な構図だった。「居酒屋三歩」で一番仕事ができるあの2人だからこそ反発したのだ。そっか、そういうことか。先輩を「立てる」どころか、仕事ができる人に向かって「あなたは無用」と言ってしまったんだ!

その週末、閉店後の店で4人は話し合いの席についた。

「侑哉、サチ、この前聞いた、辞めたいって話なんだけど…」

「その前に伺いますが、どうしてあすみちゃんが一緒なんですか。店長にお話したことなのに、おかしくないですか?」

やる気のあるいい店長だが、どうもこういうところが抜けているとあすみは思った。自分が同席することを説明し、そのうえで改善提案がきっかけで2人が辞める気持ちになった理由を本音で話し合う。その趣旨を説明せずに、いきなり“敵”が目の前にいれば、気分を害するのは当たり前なのに。

友夫はあわてて釈明した。

「いや、このまま辞めてしまうと何だかお互いに後味が悪いと思ってさ。ちゃんと話し合いをするべきだと思ったんだ。実際にあすみちゃんの提案があってから、辞めたいという話になったわけでしょ。だから同席してもらったんだよ。店にとって侑哉とサチは大切なスタッフなんだ。俺は2人に辞めてほしくはない。ついていけない、雰囲気が合わないという理由であれば、お互い話をする必要があるんじゃないか?」

「言いたいことは分かりますが…、もう嫌なんです」

サチがボソッと言った。

「嫌って何が? とにかくお互い思っていることをきちんと言おうよ。その結果、どうしようもないという結論になってから辞めても遅くないだろ。俺も納得すれば止めないから。子供じゃないんだからちゃんと言葉にしよう」

友夫がなだめるように言った。

少しの沈黙のあと勇気を振り絞ってあすみが口を開いた。

「あの、店長から辞めたいっていう話を聞いて…。やっぱり私の提案が気に障ったんですよね?」

「気に障ったとかの話じゃないよ。ただ単にやり方が合わないんだよ。ねぇサチ」

サチは下を向いたままうなずいた。

「やり方が合わないというのは、具体的にどこが合わないんでしょう。私もお店のことを思って一生懸命やっているつもりです。どこが悪いんでしょうか」

「だから、良い悪いの問題じゃなくて、とにかく合わないって言ってるだろ。ぶっちゃけ、あすみちゃんも俺らがいない方がやりやすいと思っているだろうし」

「そんなこと思っていません。誤解です。私は最初に言ったとおり全員で取り組みたいんです」

だめだとあすみは思った。ムキになったら、これまでと同じになってしまう。

「ごめんなさい、また熱くなっちゃって。正直私は何とかしたいっていう気持ちばかりで周りが見えていなかった気がします。先回は私もムキになっちゃって…。反省してます。本当にごめんなさい。でも本当に一緒に取り組んで欲しいんです。2人の力が必要なんです」

「俺らの力って何なの? 実際俺らのこと何にも知らないだろっ!」

あすみは胸を突かれた。確かに、2人のことを、みんなの和を乱す後ろ向きな人たちと思ったのは事実だ。怒気を含んだ侑哉の言葉を耳にして、あすみは2人の気持ちを理解できず、2人を傷つけていたことを思い知らされ、涙が溢れ出した。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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