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女子大生あすみの飲食店再建日記

第12話 やっぱりお店辞めたくない

2012年1月18日
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一大外食チェーンの経営者・小川昌一郎の一人娘・あすみの夢は、父の跡を継ぐこと。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。だが、アルバイトとして働き始め、店舗改善の提案をするや、ベテランスタッフの侑哉とサチは反撃し、店を辞めると言い出すまでに。あすみは、店長の友夫とともに2人を説得しようと試みる。

「あすみちゃん…」。友夫がおしぼりを差し出した。

「すみません。もう大丈夫です」

あすみはおしぼりで涙を拭い、深呼吸をした。

「あの…、私なりに思っていることをお話してもいいですか?」

「うん、話してよ。侑哉とサチも、感情的にならず、まずは話を聞こうよ」

店長の友夫の言葉に2人は無言でうなずいた。

「ありがとうございます。先輩にしてみたら生意気に聞こえるかもしれませんが、私の思っていることを言わせてください。侑哉さんはいつも率先してみんなのやらない仕事をやってくれますよね。裏方さんというか縁の下の力持ちというか。みんなからの信頼も厚くてアルバイト全員侑哉さんが影のリーダーだってことを分かっていると思います。私も入った時から頼りになる人だなって思っていました。」

侑哉はあすみの話を聞くと恥ずかしそうに下を向いてしまった。

「それからサチさんは本当に仕事が早いですよね。下げものにしても一番早いし、お客さんの呼ばれた声に気づくのも一番です。だからサチさんがシフトに入っているときはすごくホールが円滑に回るんです。この前もみんなでサチさんがいると本当に助かるって話してたんです。だから2人がいないと私たちみんな困るんです。何とか残ってもらえませんか?」

サチも侑哉と同じように下を向いてしまった。あすみから思いもかけずに褒められたことで、2人は反対に動揺して何も言えなくなってしまったようだ。

「入ったばかりの私が出しゃばってすみませんでした。できれば私の変わりにお2人がみんなを引っ張って行ってもらえませんか? 正直いっぱいいっぱいなんです。しっかりと役割分担してもらって指示を出してもらえば、私は何でもやりますから。」

「あすみちゃんもこう言ってるんだ。2人はあすみちゃんに何か言うことないの?」

「正直…」

侑哉が意を決したように口を開いた。

「恥ずかしいんだけど、最初にああ言った手前、あとに引けなかったんだ。ホントは一番店のことを愛しているのは俺らだって思いがあって…。勝手に進められるのが面白くなかった。店長は俺らのこと必要なくなったんだって思ったし。そうだよな、サチ」

「私もやりたくないわけじゃなくて、あすみちゃんが嫌いなわけでもなくて…。ただ、入ったばかりの人に店を引っかき回されるような気がして…。ごめん、あすみちゃん。気分悪かったよね。侑哉さん、私やっぱりお店辞めたくない。だってこのお店が大好きだもん」

「店長、あすみちゃん、本当にすみませんでした。小っちゃいことだってわかってたけど、どうしても納得できなくて。辞めるという話、撤回させてもらってもいいですか? 俺もお店のためにもっと頑張りたいんです。」

「えーっ、どうしようかなー」

友夫が意地悪そうな顔で言った。

「そんなー。お願いしますよ。積極的に何でもやりますから」

そんな冗談のやり取りで場の空気が一変した。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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