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女子大生あすみの飲食店再建日記

第14話 確かな手ごたえ

2012年2月1日
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一大外食チェーンの経営者・小川昌一郎の一人娘・あすみの夢は、父の跡を継ぐこと。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始め、積極的に店舗改善の提案したあすみは、侑哉とサチの思わぬ反撃に遭い一時はくじけそうになるが、腹を割って話し合うことでようやくわだかまりがなくなり、チームは一つになった。

居酒屋三歩の全スタッフが一つにまとまった。あすみは少し肩の荷が下りたような感覚を覚えた。うん、いい感じ。でも、このまま順調に行き、ミッションをクリアしたら、この店を離れることになるんだな…。あすみは寂しさを感じていた。

1ヵ月後、店は見違えるように変わった。入り口にはイラスト付きの手書き看板が設置され、簡易の照明もついた。店の前に乱雑に積まれていたビールケース類は店内のバックヤードに移され、店頭は毎日打ち水をして清潔な印象に様変わりした。スタッフは率先してゴミを拾い、汚れを落すようになり、店内はいつもピカピカになった。客席には目線の高さに一言コメントつきのPOPが張られ、賑やかで楽しい雰囲気を醸し出していた。その中で一番変わったのが接客だ。

入り口、パントリー、サービススタッフと役割分担ができ、備品などの配置も変わってスタッフ動線が短くなった分、接客にさける時間が増え、お客様との会話を楽しむ余裕もできてきた。もちろん笑顔で元気のいいあいさつも徹底できている。従業員の笑顔につられ、お客様も笑顔になった。

どのテーブルにもおすすめの料理が並び、売れ方が全く変わってきた。お店が自信を持っておすすめする料理ばかりがテーブルに並び、「美味しいね」というお言葉をもらえる機会が増えた。気づいたら手羽先の甘辛揚げを目当てに来店するお客様が増え、明らかにサラリーマンの比率が上がった。ただサラリーマン同士というよりはサラリーマン中心の男女グループが目立つようになった。

あすみは確かな手ごたえを感じた。ちょっとしたことでお店は大きく変る。それは驚きであり、喜びであった。これだけいいお店になったのならもっとお客さんを呼んでもいい時期かもとあすみは思った。

「店長、そろそろ積極的にお客さんを呼べるんじゃないですか」

「うん、そろそろだね。実は明日チラシができるんだ。みんなに内緒で作っといた」

「ホントですか。楽しみです。どうやって撒きますか」

「昼間に時間を作って会社訪問をするよ。営業時間は駅で配ろうと思う」

「一人で会社回りをするんですか」

「もちろん、営業は僕の仕事だからね」

「わかりました。では私たちはチラシ配り頑張ります」

「居酒屋三歩名物 手羽先の甘辛揚げ 三歩で飲んで明日も元気に! 私たちはみなさんを笑顔にします!」

こんなキャッチコピーで貴子のイラスト付きの可愛いチラシが翌日届いた。チラシを見てみんなのテンションは一気に上がった。

「ねえ、ねえ。みんなでチラシ配りの目標を決めようよ。当番制にして1日100枚ってどう? 最初はまず俺がやるよ」

侑哉がリーダーらしく朝礼でみんなに提案した。

「もちろん賛成です」

そんな地道な努力が1カ月ほど続いた。それぞれが役割を全うし、気づいたことはどんどん話し合い、すぐに改善がされるような環境になった。

「これがパパの言ってた組織風土か」とあすみは感心した。チームワークがいい状態。まさに今の「居酒屋三歩」がその状態なんだろうな。飲食店って面白い…。

「先月の売上を発表します」

あすみが入店して4カ月が経った月初、友夫が誇らしそうにみんなに発表した。

「612万6534円!! ついに念願の売上目標達成です。しかも社長から金一封が出ました。みんなありがとう」

「やったあ!」「よしっ!」

みんなは口々に喜び合った。それを眺めるあすみの笑顔には一抹の寂しさが浮かんでいた。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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