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女子大生あすみの飲食店再建日記

第4話 改善提案

2011年10月26日
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小さな店から始め、一代で一大外食チェーンを築き上げた男・小川昌一郎。その一人娘・あすみには、幼い頃から「父の跡を継ぐ」という夢があった。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始めたあすみは、店長に店舗改善のためのミーティングを開くことを提案した。だがミーティング当日、あすみはベテランスタッフたちの思わぬ反撃に遭う…。

「結局、一事が万事こんな感じで…」

翌日あすみは昌一郎のところに「居酒屋三歩」を視察した感想を話した。

「なるほど…。で、料理と値段はどうだった?」

「料理は結構おいしかったよ。店長さんがしっかり手をかけて作ってる感じがした。でも、ちょっと出てくるのが遅かった。全体的にスローな感じ。値段は周りのお店に比べて少し高めの設定だった。そのせいか、男性サラリーマンは少なく、女性客が多かったし。雰囲気は悪くないけど、値段のわりに接客は大きな声で返事をするのだけが取り得といった感じで、大学のサークルみたいなノリなの」

「そうか、居酒屋といってもちょっとアッパーな感じなんだな。店側の狙いとお客さんの求めるものにズレが生じているようだな。たぶん周りの店をしっかり研究してないな。敵を知らねば戦には勝てないという典型的な例だ。しかも自己満足の接客か。で、あすみはどうするつもりだ?」

「うん、まずは掃除を徹底する。接客は基礎を固めて、あくまでもお客さんが主役でスタッフは黒子なんだってことを理解してもらう。店長のモチベーションが高いので今の売り上げがあるけれど、カウンターの中にいるから客席をちゃんと見られていない感じかな。もう1人軸になる人ができれば…。それと売り物を決めてそれを明確に打ち出し、価値の高さを伝える工夫が必要かな」

「うん、ポイントはいいだろう。では早速面接に行ってきなさい」

「なんだかやることが多すぎて大変そう。でも頑張るね。行ってまいります!」

飲食店でのアルバイト経験があって、面接での受け答えもしっかりしていただけに、あすみの採用はすぐに決まった。それから1カ月も経たないうちに、あすみはすっかりホールの軸になっていた。メニューや略語表を家に持ち帰り、完璧に頭に叩き込んだ。また率先して掃除をし、お店もピカピカにした。さすがに子供の頃から飲食店の何たるかに触れてきているだけあって、飲み込みの速さは抜群だった。ほかのスタッフとのコミュニケーションも円滑で、出るところは出て、引くところは引き、相手に気持ちよく働いてもらう。それを感覚的に心得ているようだった。

昌一郎に改善提案を提出する時期が近づいていた。あすみは思い切って店長に提案をした。

「店長、今度の土曜日に全員でミーティングしませんか? 私いろいろと気がついたことがあって。お店がもっと良くなるようにみんなで一致団結したいんです」

店長の石川友夫は荒削りだがやる気だけは人一倍ある頑張り屋さんだ。

「いいね。アルバイトからそんな意見が出たのは初めてだよ。早速みんなに連絡しよう」

「はい、お願いします。私が改善提案のたたき台を作りますので、事前に2人で打ち合わせて内容を固め、店長からみんなに話してもらえますか?」

「もちろん。助かるよ。本当にありがとう」

友夫はホッとしたような表情であすみの申し出を受け入れてくれた。

土曜日の午後、あすみは改善提案を友夫に提出した。

内容は次のようなものだ。

  1. 低単価のスピードメニューを「おすすめ」として導入
  2. 入り口に簡易看板を設置し、毎日のおすすめメニューを店外に告知
  3. 清掃の徹底
  4. 接客トレーニングの実施、朝礼での基本徹底
  5. 売れ筋を分析し、売れているメニューをみんなでおすすめする
  6. ピンポイントにPOPを貼る

「店長、どうでしょうか?」

「うん、どれもすぐに取り組めることばかりだね。早速みんなで話し合ってやり始めよう」

友夫はあすみの案に全面的に賛成してくれた。1時間後「居酒屋三歩」の全スタッフがお店に集まった。総勢10人でのミーティングだ。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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