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女子大生あすみの飲食店再建日記

第5話 ミーティングの行方

2011年11月2日
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小さな店から始め、一代で一大外食チェーンを築き上げた男・小川昌一郎。その一人娘・あすみには、幼い頃から「父の跡を継ぐ」という夢があった。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始めたあすみは、店長に店舗改善のためのミーティングを開くことを提案した。だがミーティング当日、あすみはベテランスタッフたちの思わぬ反撃に遭う…。

「みんな早くからありがとうございます。ではミーティングを始めます。今日はこれから三歩をもっと良いお店にして、たくさんのお客さんに喜んでもらえるように前向きな意見交換をしたいと思います。みんな思っていることを率直に話してくださいね」

友夫がこう切り出した。

「まず話しやすいようにあすみちゃんが作ってくれた改善提案を配ります」

あすみは咄嗟に店長を睨みつけた。リーダーである店長からの提案だからこそ、みんな話を聞く気になるのに…。なんで私の提案なんて言うんだろう。反対されるかもしれないとあすみは直感した。だが、友夫はあすみのそんな不安にまるで気づいていなかった。

「もともとはあすみちゃんからの提案なんだけど、折角だからプロジェクトとして全員で取り組みたいと思う。あすみちゃんを改善リーダーにしたいと思うんだけどみんなどうかな?」

誰も声を上げなかった。

「みんなどうしたの? 何だか反応が薄いね」

「店長、質問があります」

最初に切り出したのはオープン時からのアルバイトである侑哉だった。彼は控えめながらみんなが嫌がる仕事を率先してこなす縁の下の力持ち的な存在だ。

「これは僕たちの仕事なんでしょうか。アルバイトでここまでやらないといけないんですか。店長からの提案ならまだいいですけど、何で新人アルバイトの提案で僕らが動かないといけないんでしょう」

あすみの不安は的中した。場の空気が一気に重たくなり、みんな誰かと視線を合わせるのを避けるように、下を向いた。しばらくの沈黙のあと、店長の友夫が切り出した。

「アルバイトといってもみんなお給料をもらっている以上プロなんじゃないかな。ここに来てくれているお客様からお給料を頂いているわけだし。そのお店をもっと良くしたいという意見がみんなと同じアルバイトのあすみちゃんから出たわけだから、話し合って取り組む価値はあると思う。いいお店になってもっと繁盛すれば、当然頑張った人は時給も上げられるからね。お店が良くなることは結果的にみんなにとってプラスになると思うんだ。どうだろう?」

すると古くからのアルバイトであるサチが口を開いた。

「確かに店長の言う通りかもしれないですが、アルバイトであることには変わりないし、お店に対する想いや仕事に掛ける情熱みたいなものは、みんなそれぞれ違うと思うんですよ。アルバイトしている時間にやれと言われればやりますけど、それ以上はちょっと……」

古株のアルバイト2人からの反論に友夫は慌てた。

「まあ、なんと言うかさ、とりあえず提案者のあすみちゃんの話を聞こうよ。あすみちゃん話してもらえるかな?」

ちょっと、こんな状況で私に話を振らないでよ! あすみは心の中で叫んでいた。友夫の下手な司会ぶりに腹が立ったが、今さら仕方ない。一つ大きく深呼吸をして口を開いた。

「あの…、私はみなさんと同じただのアルバイトです。でも折角こうして同じ時間を使うのであれば、もっともっと楽しく仕事がしたいんです。私にとって楽しいというのはこのお店に来てくれるお客さんの笑顔を見ることで、できれば全てのお客さんを笑顔にしたいと思っているだけなんです。その中で自分も成長できればもっとうれしいと思うんです」

そこで一旦言葉を切り、一人ひとりの顔を見まわしてゆっくりと言葉を続けた。

「みなさんはどうしてアルバイトしてるんですか。お客さんが笑顔になってくれたほうが楽しくないですか。お客さんに喜んでもらって自分も成長できれば、素敵だと思いませんか。全員で一致団結して一つの目標に向かって進む。これってすごく素晴らしいことだと思うんです」

言い終わると、手のひらがじっとり汗ばみ、鼓動が早くなっていた。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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