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女子大生あすみの飲食店再建日記

第6話 やりたい人だけでやってくれ

2011年11月9日
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小さな店から始め、一代で一大外食チェーンを築き上げた男・小川昌一郎。その一人娘・あすみには、幼い頃から「父の跡を継ぐ」という夢があった。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始めたあすみは、店長に店舗改善のためのミーティングを開くことを提案した。だがミーティング当日、あすみはベテランスタッフたちの思わぬ反撃に遭う…。

「言ってることは間違っていないと思うよ。でも、俺は別に卒業してから飲食やろうなんて思っていないし。三歩でアルバイトをする一番の理由は、学費を稼ぐためだから。アルバイトを通じて勉強して成長するなんて考えてないよ」

侑哉が低い声で感情を押し殺すようにして言った。

意識が低い。あすみは正直そう感じていた。こんな人たちでは売り上げが上がらないに決まっている。

「あの、店長。店長はお店を良くしたいんですよね。だったらやりたい人だけで始めればいいんじゃないですか。私は一人でもやりますけど」

あすみもついついムキになってこう言い放ってしまった。

「まあまあ、みんなそうムキにならなくても。俺は店長だから当然店を良くしたい。できればみんなで同じ気持になって取り組みたい。でもアルバイトのみんなに無理強いはできない。結論から言えば協力してくれる人からまず始められたらと思う。決を採りたいんだけどどうかな?」

決を採った結果、結局反対したのは侑哉とサチの2人だった。だが、他のアルバイトも積極的に改善に取り組みたいというわけではなく、この気まずい空気から早く逃れたくて店長の意見に同調したという雰囲気がありありと出ていた。そして、はっきりと異論を唱えた先輩アルバイトの侑哉とサチに気兼ねしているようだった。

「じゃぁせっかくみんな集まっているんだから会議を進めよう。侑哉とサチもちゃんと話を聞いてね」

友夫がこう促してようやく会議が進み始めた。

あすみは言葉を選びながら自分のプランをみんなにわかりやすく説明した。

「みなさん、生意気なこと書いてすみません。折角だからもっともっとたくさんのお客さんに喜んでもらいたくて…」

「もちろんだよ。力を合わせて頑張ろうよ。ねえ、みんな」

場違いなほどの大声でそう言ったのは、ホール担当でいつも元気一杯のアルバイト憲一だった。彼の元気は空回り気味のことが多いが、何事にも真面目に取り組むのが取り得の若者だ。憲一の一言でどんよりとよどんでいた空気が少し動いたようだった。

「侑哉さんとサチさんも一緒にやりましょうよ」

憲一の呼びかけにも侑哉は首を横に振った。

「いや、俺らはいい。やりたい人がやってくれれば……。やりたくなったら勝手に参加するから」

「そうですか……。僕もまだよく分からないですけど、とりあえず楽しそうなんでやってみてもいいですか」

「俺に断る必要はないよ」

「分かりました。じゃあ侑哉さんとサチさんがやりたいと思ってくれるように、とにかくまずやってみようよ。ね、みんな」

この場では、憲一の開けっ広げの明るさと元気さが救いになった。憲一の勢いに押されるように、みんなはこくんと頷き、「やってみよう」「うん、頑張ろう」と前向きな声が発せられた。ただ2人を除いては。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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