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女子大生あすみの飲食店再建日記

第7話 それではリーダーと言えない

2011年11月16日
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小さな店から始め、一代で一大外食チェーンを築き上げた男・小川昌一郎。その一人娘・あすみには、幼い頃から「父の跡を継ぐ」という夢があった。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始めたあすみは、店長に店舗改善のためのミーティングを開くことを提案した。だがミーティング当日、あすみはベテランスタッフたちの思わぬ反撃に遭う…。

「ということで、誰がいつまでにやるか担当を決めようよ。とりあえず店長である僕は低単価のスピードメニューを来週末までに10品提案するよ。それと毎日日替わりで5品料理を提案するようにする。それと売れ筋の分析も任せてよ」

友夫が期日と内容を具体的にみんなに示した。

「私は絵を描くことが好きなので、外の看板とPOPを作ります。料理が決まり次第教えて下さい。売れているメニューのPOPは月曜日に少し早く来て書きますね」

美大に通っている貴子が自ら名乗り出た。

「僕はあまり特技がないので清掃隊長をやります。来週中にチェックリストを作ります」

憲一が手を挙げた。

「接客トレーニングはあすみちゃんにお願いしようと思うけどどうかな」

友夫の投げかけに、みんなが賛成した。

「ありがとうごいざいます。では私が担当させていただきます。毎日1時間早めに来ることはできますか? できれば時給をつけてもらったほうがみんなも来やすいかと…」

「もちろんだよ。会社には今日の会議の報告をするからそのときに許可をもらう」

友夫が任せとけという表情で請合った。

「やった!」

みんなの笑顔を見てあすみは「いける!」と確信した。もちろん、例の2人の強張った表情は気にかかってはいたが…。こうして全員参加とはいかなかったが、「居酒屋三歩」改善プロジェクトはスタートした。

あすみは前日の会議の様子を昌一郎に報告した。

「うん、方向性はOK。あとは徹底できるかだな。徹底するために役割分担があるんだよ。チームワークが良いというのはそれぞれが役割を果たし、誰かが手伝わなくてもいい状態のことを言うんだ。このプロジェクトが上手くいったら間違いなく組織風土は改善するよ。その結果、お客様が笑顔になって少しずつ良い口コミが広がっていく。ただ、心配なのはその2人だね。全員が一致団結しないとこういうプロジェクトは成功しないから。あすみ、どうするつもりだ?」

やはりそこを突かれた。あすみはしばらく考えて正直な気持ちを口にした。

「放っておくしかないでしょ。やる気がない人を相手にしても仕方ないもの」

「それは違うな」と昌一郎は言下に否定した。

「考え方が違う人間が集まって社会は出来ているんだ。自分と違う考え方だから放っておくようではリーダーとは言えない。違う考え方の人間を一つの方向に向けることができるからこそリーダーなんだ。パパの跡を継ぐということは組織のリーダーになるということだ。スタッフたった10人の店をまとめられないようでは、スタッフ3万人の会社を継ぐなんて到底無理だ。まずは2人としっかりと向き合いなさい」

向き合えと言われても、あの2人が自分の言葉を聞いてくれるとは思えなかった。でも、20年余りで1000店舗を築いた経営者の言葉は重い。モヤモヤした気持ちを抱えながら、あすみは「居酒屋三歩」の扉を開けた。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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