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女子大生あすみの飲食店再建日記

第8話 動き出したスタッフ

2011年11月30日
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小さな店から始め、一代で一大外食チェーンを築き上げた男・小川昌一郎。その一人娘・あすみには、幼い頃から「父の跡を継ぐ」という夢があった。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始めたあすみは、店長に店舗改善のためのミーティングを開くことを提案した。だがミーティング当日、あすみはベテランスタッフたちの思わぬ反撃に遭う…。

「ねぇ、見て見てあすみちゃん」

弾んだ声であすみを呼ぶのは貴子だった。

「看板とPOP、こんな感じでどうかな。ちょっと下書き作ってきたんだけど」

「うわ!すごい素敵!これなら分かりやすくてお客さんにも伝わると思うよ。でももう少し看板メニューの料理を大きく書いたほうが売れるんじゃないかな」

「そうだね。売り物強調しないと。じゃあこれを基にして看板作るね。何だか文化祭みたいで楽しいね」

「僕は掃除のチェックリスト作ってきた。掃除をし始める順番にまとめてみたんだけど、どうかな」

憲一は今日も元気いっぱいだ。

「いいね。次はこれやってって感じで分かりやすい。あとトイレチェックリストもあるといいね」

「そう思って作ってきたんだ。これでいいかな?」

「さすがだね!みんなすごいよ」

あすみは貴子と憲一のやる気に触れて、さっきまでのモヤモヤが吹き飛ぶ思いだった。仕込み中の友夫も自信満々といった表情でカウンターの中から話しかけてきた。

「あのさ、売れ筋をしっかりと分析してみたんだ。ちょっとこれ見てよ」

「何ですか、この表は?」

「みんなでミーティングした後に勉強しようと思って本を買ったんだ。その本に売れ筋分析の仕方が載ってたんで参考にしたんだよ。選択食数と言って、お客さん100人に対して何品売れているかっていう指標らしい。これでみると先月一番売れていたのが手羽先の甘辛揚げで100人で18人前出ている。専門店じゃない居酒屋で、一つのメニューが10以上出ていたら十分ヒット商品だと言えるんだって。これを三歩の名物として積極的にお客さんに売り込んでいきたいんだけど」

「そう言えば結構おかわりするお客さんが多いですよね。あれが入りだすと揚げ場が大変なんですよ…」

キッチンアルバイトの仁志が話しに割って入ってきた。

「手羽がたくさん出ると、揚げ場が回んないっすよ。結構キツイっすけど」

「でも売れてるものだから、お客さんに支持されているってことだろ? 頑張ってもっと売っていこうよ」

「それなら、セッティングとか変えてもいいですか?」

「いいよ、積極的に取り組もうって話し合っただろ。思った通りに改善してみろよ」

「ありがとうございます! じゃあ任せてもらいますね。よっしゃ! ホールさんたちどんだけでも売り込んできてよ」

「了解でーす!」

こうして「居酒屋三歩」の名物が手羽先の甘辛揚げに決定した。

「それとおすすめだけど今日から毎日5品出すよ。1週間単位で決めるんで貴子がスピードメニューと併せて毎日書いてくれるかな。まとめて出せば書けるでしょ」

友夫の呼びかけに貴子は「わかりました」と応じた。

「可愛いイラスト付きにしますね。店長の似顔絵とか入れて“友夫のおすすめ”とかにしてもいいですか?」

「いいよ。任せるからばっちり書いてよ」

「あの…、この前まかないで食べさせてもらった丼が美味しかったんですけど、あれってメニューで出せないんですか」

ドリンク兼洗い場担当の大石が提案した。

「出せるよ。じゃことネギの玉子掛けでしょ?じゃあそれを三歩のまかない丼としておすすめメニューに加えよう。オペレーションも簡単だし。貴子、それも併せてよろしくね。」

「了解です!確かに美味しかったですもんね。イラスト描いちゃいますよ」

「何だかみんな楽しそうですね。私も本当に楽しくなってきました」

あすみはみんなの積極的な意見が嬉しくて仕方なかった。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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