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女子大生あすみの飲食店再建日記

第9話 接客トレーニング開始

2011年12月7日
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小さな店から始め、一代で一大外食チェーンを築き上げた男・小川昌一郎。その一人娘・あすみには、幼い頃から「父の跡を継ぐ」という夢があった。そんなあすみに、昌一郎は入社試験の代わりとして、営業不振の飲食店を再生させるいくつかのミッションをこなすことを命じた--。あすみが最初に出向いたのは「居酒屋三歩」。料理はそこそこ美味しいが、接客に課題を抱えている店だ。アルバイトとして働き始めたあすみは、店長に店舗改善のためのミーティングを開くことを提案した。だがミーティング当日、あすみはベテランスタッフたちの思わぬ反撃に遭う…。

午後4時を回ってアルバイトが続々と集まり始めた。いよいよ接客トレーニングの開始だ。

「ではまず挨拶の練習をしましょう。私の後に続いてもらえますか」

あすみが大きな声でみんなをリードした。

「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいませ!」

「元気でいいんだけど、折角なのでアクセントを揃えませんか?」

「え?アクセント?」

憲一が不思議そうな顔をした。

「はい。いらっしゃいませの【ら】を強く発音して【せ】を上げるんです。やってみますね。いらっしゃいませ↑」

「なるほど、これなら怒鳴る感じじゃなくてきれいに聞こえるね。これで練習しよう」憲一の言葉にみんなうなずいた。

「そうだな、こうすれば大石もダミ声で怒鳴らないで済むし」

「まじっすか? 俺いつもダミってますか?」

「何お前気づいてなかったの? ウケるんだけど」

友夫と大石のやり取りにみんなが爆笑した。しかし、そんな楽しそうな参加者を横目に侑哉とサチは遅れて店にやってきた。態度は明らかに嫌々といった感じだった。

2人が気にかかっていたあすみは接客練習の後に声をかけた。

「おはようございます」

「ああ、おはよ」

「あの、折角だからみんなで楽しくやりませんか? 私はみんなでやりたいんです。お二人の協力がないと意味がないと思うんです」

「いや、僕らはいい。やりたくなったら勝手に参加するから、あすみちゃんはみんなと頑張ればいい」

侑哉はどうぞご自由にと言わんばかりだった。パパは向き合えと言ったが、相手がこっちを見てくれないのではどうしようもない。あすみは2人を巻き込む糸口を見つけかねていた。

そんな2人を気にかけながらも、あすみの接客練習は熱を帯びていった。挨拶練習から接客練習、居酒屋らしいテーブルマナー、ロールプレイング……。ミーティングの結果、接客のテーマは「丁寧過ぎず、雑じゃない」に決定した。居酒屋っぽく元気一杯の笑顔でおもてなしをする。そのための練習が続いた。

「いらっしゃいませ、こんばんは」

「2名さまですね。お席にご案内致します」

「Cの3番にご新規2名さまご案内致します。」

「いらっしゃいませ!」

「新規ドリンク頂きました!」

「ありがとうございます」

「Cの3番にドリンク出ます」

「はいよ!」

「はい、失礼致します。生ビールでございます。お待たせ致しました」

「ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします。よろしければ当店名物の手羽先の甘辛挙げは如何ですか?」

「かしこまりました。順番にお待ちいたしますので少々お待ち下さい」

「Cの3番にお料理頂きました」

「ありがとうございます」

「Cの3番にお料理出ます」

「はいよ!」

「お待たせ致しました。当店名物手羽先の甘辛揚げでございます。こちらの殻入れをお使い下さい」

「いかがですか?」

「うん、美味しいよ」

「ありがとうございます。Cの3番に『美味しい』頂きました」

「ありがとうございます!」

「お会計お願いします」

「はい、ありがとうございます。Cの3番チェック入ります」

「ありがとうございます!」

「お客様お帰りです」

「ありがとうございました!」

ポイントは全員アクセントを揃え、元気良く笑顔でコールすること、「○○の方」「○○になります」などの雑な言葉使いは止め、正しい言葉でお客様に接すること、お帰りの際は全員手を止め、お客様に向かって必ず一礼し、外までお見送りすること、それを徹底して練習した。

「とにかく毎日繰り返し繰り返し徹底してやろうね」

そんなあすみの問いかけに貴子が笑顔で答えた。

「うん、全員ができるようになると楽しいね。何だか営業前に体も温まるし」

あすみは店全体に一体感が生まれてきているのを実感していた。残る問題はあの2人だ。そろそろ打ち解けないと…。

(つづく)

著者プロフィール

鬼頭誠司(きとう・せいじ)
1971年、名古屋市生まれ。1994年、愛知大学法学部卒業。大学時代から名古屋市で居酒屋を経営し始め、12年で20店舗・年商20億円に拡大する。現在、コンサルティングや受発注システムの運営を行うキューズファクトリーズ社長

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