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編集部のマルチスコープ

日本人シェフのレストラン「Makoto Aoki」

フランス料理の最高のベーシックを伝える

青木誠さんと三代子さん

フレンチの料理人・青木誠さんが2006年6月、料理人でもある姉の三代子さんとともにパリ8区にレストラン「Makoto Aoki」をオープンした。青木さんがシェフを務めるのは、ミシュラン・ガイドにも記載されて高い評価を受けていたパリ12区の「オー・ルベル」に続いて2店め。自分の店を持つことが目標だったという青木さんが、自身の名前を冠したレストランで、新しいスタートをきった。

「Makoto Aoki」の内装は、赤や黄色を基調にした明るい南仏風

青木さんの実家は東京・銀座の寿司屋。フランス料理との出会いは、小学生時代のテレビ番組だそうだ。プレートに盛られたフランス料理を見て、その華やかさにとりつかれた。料理人の手だけを黙々と映す番組では、フランス料理のさまざまな“音”に、毎日聞き入っていた。高校卒業後、調理人の道をめざし、東京・銀座「ロオジエ」などで修行。1995年に渡仏。ドイツ・ケルンのレストランを経て、1999年の「ロオジエ」のリニューアルオープンに合わせて帰国。2001年3月、ケルン時代のレストラン経営者がパリで「オー・ルベル」を開業することとなり、青木さんはシェフとして呼ばれ、三代子さんも共同経営者として参画した。

「オー・ルベル」では、国際的なキャリアを持つ経営者の影響もあり、世界のスパイスや日本の風味も取り入れた料理が中心だったが、「自分のレストランでは、同じ料理は作らないと決めていました」。「無理にクリエーティブな料理を目指したり、外国の味を使うつもりはありません。たとえばブール・ブラン(魚用バター・ソース)なら、スパイスを入れて味を変える必要はない。今まで教えてもらってきた基本を、そのまま忠実に実行すればそれでいい。そう思っています」。

前菜の一つ「手長エビのグリルとブロッコリーのクリーム添え」

たとえば夏のメニューでは、「夏野菜のプレセ」、「柑橘風味のフォアグラのコンフィ」、「ハト肉のシュー包み」、「子羊のクレピネット(平腸詰)」、「スズキの丸焼きのジャガイモ添え」など。食材の旬の味を、素直においしいと感じさせてくれる料理だ。

こうした正直な料理で勝負できるのは、青木さんの料理人としての自負があるからこそ。周囲の人に対する姿勢も、料理同様、真摯でまっすぐだ。

「料理人として今、ここにいられるのは、シェフのおかげ」と、師と仰いでいるのが、「ロオジエ」の元シェフ、ジャック・ボシー氏。「国籍、場所を問わず、料理に対する高いモチベーションを持つことを学んだ。そして開業を実現できたのは、協力してくれた友人たちのおかげだ」と言う。

たとえば、最初に見つけた物件は、賃貸契約直前にキャンセルされ、日本帰国を考えたことも。しかし、3週間もしないうちに現在の物件を探し出してくれたのが、友人の1人。オープン後には、友人の調理人たちが手伝いにやって来たり、多くの知り合いが友人を連れて訪ねてくれた。「経営は1人ではできませんから。これまで誠実な付き合いをしてきてよかったと、実感しました」。

レストランの場所は、シャンゼリゼ通りから北に伸びる小さな通りで、昼の客層は近隣の会社員がほとんど。購買力はあるが、味にもサービスにもシビアな客層だ。

オープン直後には、こんなこともあった。予想外に大混雑した、あるランチタイム。当時サービスは三代子さん1人で、厨房との連携がまだつかめず、サービスが遅れがちに。3人連れの客の2人は待ちきれずに帰ってしまった。残った男性は「この界隈で働く人たちの昼は時間がないから、サービスはもっと早くしないと。でも料理はとてもおいしかった」と言って帰っていった。その客は、翌日も、その翌日も、友人を連れて来てくれたという。

「毎日お客様から教わっています。フランス人は、シェフがフランス人であろうが日本人であろうが、おいしければ食べに来てくれる。偏見を持っているのは私たちの方かもしれません」。「オー・ルベル」は、ミシュラン・ガイドやゴー・ミヨなどにも掲載されていたが、ガイドブックを見てレストランに行くフランス人は少数派だ。なにより口コミで評価が定まることを、青木さんたちはこれまでの経験で実感している。「Aoki」にはすでに常連客もでき、その客の紹介によって、客層は徐々に広がっている。

「Makoto Aoki」

19 rue Jean Mermez, 75008
TEL 01 43 59 29 24
日曜、定休

2006年9月19日|Posted by 千秋 三富