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編集部のマルチスコープ

山形の灰色の空に、清々しく輝く青い空を感じた

「光陰矢のごとし」である。ついこの間まで、新年の行事に明け暮れていたかと思えば、もう5月である。

 

慌しく日々を過している中、私が活動の一環としている「ラーメンSOS」で東北へと赴くこととなった。相談事を終え、帰路につこうと思っていた矢先、おいしいスープのラーメン店があると紹介してもらった人物を、今回はご紹介する。

宇野耕二氏(1970年6月8日生まれ)である。現在彼は山形県の東根市で「とんこつらーめん こう路」の店主として活動しておられる。

人なつこい山形訛りの方言と、さわやかな人柄の宇野耕二氏

宇野氏の作るラーメン

10年程前、世の中が2000年問題や世紀末で騒がれていたころ、東京の巣鴨でなんとなく入った立ち食いラーメン店。そのラーメンの個性的な味に思わず仰天。「うまいっ!!」。無我夢中で食べ終えたあと、周りを見渡すと1枚の貼り紙が…。「アルバイト募集中!!」。このお店で働きたいという思いが、1カ月後には現実となっていたという。

そのお店の4Fには、スープの厨房があり、そこでは直径60cmの寸胴鍋が11本設置され、 絶え間なくグラグラと強火でとんこつスープが炊かれており、そのスケールの大きさに圧倒されたと当時のことを語る宇野氏。修業も3年が経過して、ラーメン作りもある程度マスターしたころ、彼はふと思うようになった。「山形に帰って、本格的なとんこつラーメン店を始めてみたい!」と。

年に1度は帰省していたので、山形のラーメン事情は、大体分かっていた。醤油ラーメンや味噌ラーメンの名店は数あれど、とんこつラーメンに関して言えば、山形はまだまだ発展途上。きっとチャンスはあると思ったという。

そこから、彼の試行錯誤が始まる。まずは、店舗作りからである。色々な物件を当たってみた結果、宇野氏は東根市のロードサイドに土地を借りて店舗を構えた。山形は雪深く、店舗自体のサインはあまり目立たないため、店舗周りに凝るよりは路面看板に力を入れることに。その結果、彼の店にはのれんものぼりもない。

スープに関しては、首都圏でもてはやされている濃厚なとんこつスープよりは、マイルドで臭みの少ないオリジナルスープを目指し、地元の鋳造メーカーに掛け合い、圧力寸胴鍋を一から共同で開発。とんこつスープに不馴れな地元のお客さまに抵抗なく食べていただけるような臭みと濁りの少ないクリーミーなスープ作りを成功させた。

余談になるが、この圧力寸胴鍋は現在も改良を加えている段階だが、かなりの優れモノで、今までのスープの仕込みでは考えられなかった画期的な時間短縮と手間の解消を実現するとともに独特のイヤな臭みを感じさせないスープ作りをも可能にした。おそらく、これからのラーメン店では常識になっていくのではないかと思われる完成度の高さである。この鍋の導入によって、スープ作りから仕込みまで、すべて一人でこなす事が可能にもなった。そして2000年3月いよいよ店はオープンした。

山形と言えば、さくらんぼで非常に有名だが、実は、ラーメンの消費に関しては最強の東北地方の中でも『ぶっちぎりの1位』であることをご存じだろうか…(2007年の家計調査から。政令指定都市及び県庁所在地での比較。単身世帯除く)。東京や、味噌ラーメンで有名な札幌にも、およそ3倍の差をつけているほどである。

そんな状況の中、美しい厨房から提供される自家製のクリアスープのとんこつラーメンや餃子・杏仁豆腐などの多彩なメニューは、地元の方のみならず、他県からのお客様にもオープン以来大人気で、仙台からもわざわざ通って来るお客様もいるほどだ。

現在では、山形まるごと情報サイト「ヤマガタ・ウェイ」 で、人気ラーメン店のランキング3位(2009年12月15日現在)のポジションを獲得。山形県内最多の発行部数を持つフリーペーパー「ヨミウリ ウェイ」にも掲載されるなど、その勢いはますます加速中である。

「とんこつスープを食べさせるお店がないのは、売れないからだ!」と解釈するか、「とんこつスープを食べさせるお店がないから、必ず売れるはずだ!」と解釈するか……。

まさしく、ここがビジネスチャンスの分岐点であるが、宇野氏の場合は、とんこつスープが地元の人に受け入れられにくい理由をハッキリと分析し、新たなスープ作りに納得がいくまでチャレンジした。それが成功の秘訣と言えるであろう。

地元のお客様のみならず、この看板を目指してやってくる遠方のファンも多い

彼の性格が滲み出ている、清潔感とアットホームな感覚が漂う店内とキッチン

 

さわやか真っ青な輝く空を思わせる彼の人柄から作り出されるオリジナルのメニューは、今日もまた、お客さまに満足感と晴れやかな後味を残していることであろう。

ご活躍をお祈りしたい。

                        

2010年5月6日|Posted by 力彩 宮島