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編集部のマルチスコープ

格安メニューで、いにしえの都に新しい食文化の狼煙(のろし)を上げる(よーじや2)

♪どんぐりころころ どんぶりこ お池にはまって さあたいへん。どじょうがでてきて こんにちは ぼっちゃんいっしょに あそびましょう…♪

大正時代に作られた、懐かしい唱歌(童謡)である。幼少のころ口ずさんだ皆さんも多いと思う。2007年(平成19年)には「日本の歌百選」に選ばれた。

これからの季節にぴったりの可愛い歌詞であるが、京都にも「どんぐり通り」という通りがある。

祇園の最南端に位置し、近くには多数の置屋や甲部歌舞練場、京都の夷神社や日本最大の禅寺「建仁寺」などがあり、雑踏を避ける地元の人々や、昔ながらのディープ京都を愛する人々には、お馴染みの通りである。

本木雅弘と宮沢りえが共演したお茶のコマーシャル(京都福寿園伊右衛門)で撮影されたことで有名になった建仁寺が近くにある影響からか、海外からの観光客に混じって若いカップルや女性グループもこの辺りには多く見受けられる。

今回ご紹介するのは、この(どんぐり)通りにある、レトロで昭和の雰囲気の漂う炭火・豚ホルモンのお店『どんぐりとんちん』(www.donguri-tonchin)の店長、渚 敬児氏(1981年12月18日生まれ)だ。

渚店長

現在29歳の若き店長は、数名のスタッフと共にこのお店をきりもりしている。

彼の出身は岐阜県である。16歳で美容師を目指しながら空き時間には天丼屋さんをはじめいくつかの飲食店でアルバイトを経験した。その後、21歳で独立。京都の創作和食の店で本格的な飲食の修業に入った。そんな渚青年に衝撃を与えたのは、当時よく通っていた同じ地域の居酒屋さん。「1000円前後で、こんなに満足するほど美味しく食べて飲めるなんて…」。その感動に、修業をしていた創作和食店とは違った観点で、飲食業を捉え始めた。

「いつかこんなお店ができたらいいのに…」そんな折に、よーじやの社長と、行きつけのたこ焼き店で顔なじみになり開店の運びとなる。

このお店の一押しのおススメメニューは、店名の語源ともなっている「豚(とん)ちゃん」。

「豚(とん)ちゃん」

店名となっている「とんちん」は、この「とんちゃん」に京都らしいアレンジを加えたものとのこと。お祭りの時や踊りの時に聞こえる「ちんとんしゃん」も感じさせる。

関西ではあまり馴染みのない名前だが、彼の出身の東海地方ではメジャーな品で、一般のスーパーマーケットでもよく見受けられるという。

丁寧に下処理され、独自のタレに漬け込まれた豚ホルモンは1皿300~400円と驚きの価格で、お腹にもお財布にも優しい。しかも、女性にはお肌にも優しい。修業時代に感動した時のように、安い価格で美味しいモノをお腹いっぱい食べてほしいという店長の思いが盛りこまれた逸品である。

一時期、若い人の間で「まったり」とういう言葉が良く使われていた。「彼氏と部屋でまったりしててん」や「公園でまったりデート!」などという風に。この「まったり」は、京都の方言である。

「まったり」とは落ち着いて、穏やかな様子。とろけるような感じを表す京言葉である。何やらコクのある口当たりのこの言葉は、このお店のメニューと居心地を表現するのにぴったりである。

冒頭の「どんぐりころころ」の原曲には、三番の歌詞は無いが、作詞者不詳の幻の三番の歌詞が歌われている。

♪どんぐりころころ 泣いてたら 仲良し子りすが とんできて。落ち葉にくるんで おんぶして 急いでお山に 連れてった…♪

どう間違ったのか、私はこの唄の冒頭の部分を「どんぐりころころ ドングリコ…」と 憶えてしまって、今でもこの唄を唄う折には周りの人たちとの議論となる。…正しくは『ドンブリコ』である。

当時、テレビコマーシャルで流れていた「グリコ」の社名が余りにも耳についていたのか?「どんぶりこ」の意味が解らず、どんぐりの子供で「どんぐりこ」と解釈したのか…。幼少のころは、意味を考えずイメージとメロディだけで憶えてしまったからだろう。

「おふくろの味が忘れられない」とよく言われるが、その人の味覚を左右する点では同じような取り違えがあるのかもしれない。味はともかくとして、幼い頃からの食欲を満たしてくれていた一品は、体内のDNAに深く記憶として刻みこまれるのだろう。

今まで味わったことのない味に対して、人は興味を抱き、どんぐりの唄と同じように間違った解釈をされるかもしれないが、忘れられないものとして心に残っていく…。「とんちゃん」は、京都にとっては新しいジャンルとされるが、オープンしてから一年たらずのこのお店もすでに地元のファンも増え、おおいに賑わっている。

「うちは、世界で二番目に美味しい店どす。一番は、おふくろの味ですよってに…」。

温かく、柔らかな気遣いとともに提供されるご自慢の一品は、故郷への郷愁を感じさせながら、今日もまた、いにしえの都に新風の狼煙(のろし)を上げていることだろう。

2010年11月30日|Posted by 力彩 宮島