「日経レストランONLINE」は、「日経レストラン」の休刊に伴い、3月末日をもって更新を休止することになりました。長らくご支援を賜りました皆様に厚く御礼を申し上げます。

編集部のマルチスコープ

吉野家・安部社長に学ぶ「現場に響く言葉」の大切さ

ご愛読ありがとうございます。日経レストラン編集長の戸田顕司です。

牛丼チェーン「吉野家」を22年にわたって引っ張ってきた安部修仁・吉野家社長が、9月1日付で経営の第一線から退くことを明らかにしました。

私が初めて安部氏に会ったのが2004年1月6日のこと。BSE(牛海綿状脳症)で日本政府が米国産牛肉の輸入停止を発表し、「もしかしたら吉野家が牛丼を販売できなくなるかも」と世間が大騒ぎしていた時期です。状況は流動的だったにもかかわらず、きちんと取材対応する姿勢に真面目な人柄を感じた記憶があります。

その後、看板商品である牛丼の販売休止に、経営者としてどう立ち向かったか――。一連の過程を取材し、『逆境の経営学』としてまとめました。

そのなかで印象的だったのが、「アッタマ(頭)にきた」というメッセージを安部氏が社員に投げかけたエピソードです。05年12月に日本政府が米国産牛肉の輸入再開を決め、いよいよ「牛丼復活!」と吉野家が盛り上がっていたときです。そこに06年1月20日に特定危険部位を除去していない米国産牛肉が見つかるという事態が起き、日本政府はすぐに米国産牛肉の輸入を停止したのです。

同時に、「牛丼復活」も延期を余儀なくされました。現場は、突然、“冷水をぶっかけられた”というわけです。このとき、経営者として現場にどのような第一声を発するか。熟考した安部氏の結論が、「アッタマにきた」だったのです。

安部氏は、この狙いを「現場に『自分の思いを社長が代弁してくれた。同じ気持ちなんだ』と分かってほしかった」と明かします。そうすれば現場の怒りや憤りが落ち着き、これから何をしなければならないかに意識が向かうと考えたからです。

「アッタマにきた」は、一見、感情的な発言ですが、実は思慮に富んでいたのです。経営者や店長、マネジャーなど、スタッフを牽引する役割を担う人は、どの言葉を使うと最も響くのか、意識して行動する。ここに、1980年の倒産と2004年の牛丼休止という2度の逆境を克服してきた安部経営の強さの一端があります。

では、後を継ぐ河村泰貴・吉野家ホールディングス社長が、トップと現場の一体感を作り上げていくためにどのようなメッセージを発していくのか。正式に吉野家社長に就任する9月1日の第一声が、今から楽しみです。

【お詫びと訂正】日経レストラン2014年6月号特集で取り上げた「中国料理 文菜華」の記事に誤りがありました。30ページ「シェフのおまかせコース」の価格は1万800円、品数を9品、31ページの写真説明を「1万800円以上」に訂正します。読者の皆様並びに関係者の方々にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

2014年6月5日|Posted by 日経レストラン編集