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編集部のマルチスコープ

ラーメンの名店「博多 一風堂」がニューヨークで第二の創業

一風堂は、テレビが生んだ時代の寵児である。

1997年、「博多 一風堂」を展開する力の源カンパニー社長の河原成美は、日本全国のラーメン職人が技を競うテレビ番組「TVチャンピオンラーメン職人選手権」で優勝した。その後、前人未踏の3連覇を達成し、殿堂入りを果たした。2005年には日本一のラーメン職人を決めるテレビ番組「麺王」でも優勝している。

全国有数のラーメン激戦区である地元・博多で培った味と、テレビで得た知名度を生かし、河原率いる力の源カンパニーは、国内で50を超える「一風堂」を展開している。

今回取り上げるのは、力の源カンパニーが2008年3月、米国ニューヨークにオープンした「IPPUDO NY」である。開店から大いに話題を集めたこの店は、わずか1年後の2009年には、日本のラーメン店で初めてミシュランガイド(「ミシュランガイド2009NY版」)で紹介された。

そのラーメン食べたさに、ニューヨーカーたちが1~2時間も、おとなしく列を作って待つ光景も珍しいものではなくなった。

平日で500~600人、週末になると800~900人が来店する。しかも客の8割はニューヨーカーだというのだから、しっかり地元に根付いている。

コンセプトは「リアル・ジャパン・スタイル・ネクスト」

では、ニューヨークの一風堂は、日本の店と何が違うのか。コンセプトから経営手法、収益の上げた方、メニュー、料理の素材や作り方まで徹底的に分析してみた。

結論を言えば、ニューヨークの店は日本の一風堂とは似て非なる点をいくつも持っていた。日本の成功をそのまま米国に輸出したのではなく、ニューヨークで第二の創業をした、とも言える。

「リアル・ジャパン・スタイル・ネクスト」。ニューヨーク店が掲げるコンセプトに、その意気込みがうかがえる。本物の味、日本の味を米国へ、そして、次の新しいスタイルをニューヨークで確立していく、という志である。

カウンター6席を含めて85席と、店は広い。80人いる従業員のうち20人はフロアスタッフ。カウンターが主流の日本のラーメン店のイメージは、ここにはない。

モダンで洒落た店内にはジャズが流れ、スタイリッシュな店を演出している。そして枝豆やサラダなどのアペタイザーと一緒にゆっくりとお酒を楽しみ、締めにラーメンという食べ方を提案している。

併設バーで売り上げの10分の1を稼ぐ

ラーメンの素材は、ほとんどが米国での現地調達だ。日本から取り寄せているのは醤油だけ。それ以外は麺に使う小麦、出汁を取る豚なども米国産のものを使っている。

ただし、他のラーメン店が米国製の麺を使う中、この店は日本から取り寄せた製麺機を使って、自家製の麺を作って提供している。

「米国の素材で日本と同じような味になるのか」と思うかもしれないが、食べてみれば、そんな疑問は氷解する。日本に負けないどころか、ニューヨークらしい新しい味を作り出すことに成功している。

ニューヨークらしさは、店に併設してあるバーからもうかがえる。

ニューヨークでは、レストランの席が空くのを待つ間、併設のバーで酒を飲み、会話を楽しむのが一般的だ。IPPUDO NYも、このスタイルを採り入れている。何と売り上げの10分の1を、このバーテンダー1人のバーで稼いでいるという。

ドリンクは日本のビール、日本酒、焼酎がメーンだが、日本酒を使ったカクテルもある。日本酒とカシス、クランベリージュースを合わせた「舞妓」、日本酒、ジン、レモン、グレープフルーツジュースを合わせた「博多」などだ。「侍」というカクテルもあり、お客に日本を意識させる工夫がある。

のびにくい麺など米国対応を徹底

今や順風満帆に見えるNY店だが、進出に当たっては周到な準備をしている。

1つは、麺をのびにくいものに改良したことだ。米国人はテーブルに注文品が揃ってからでないと食べ始めないことが多い。店員が「出来たてがおいしいですよ」と説明しても、聞き入れてもらえないこともしばしばだ。作り直すこともあるという。のびにくい麺は、こうした文化の違いに対応したものなのだ。

塩気が強いのを嫌う客のためにスープの味を調節したり、ベジタリアンや宗教上、豚を食べられない人のためのメニューも用意している。これは、しいたけと昆布で出汁を取り、肉や魚は一切使っていない。「裏メニュー」だからメニューには載せていないが、ベジタリアンの中で噂が広がり、1日30食ほど注文があるという。

また、ラーメンをテイクアウトできると思っている人が結構いるというのも、米国ならではの話だろう。

もちろん、ニューヨークの店でテイクアウトは実施しておらず、メニューやホームページにもその旨を記している。しかし「カネを払ったのだから俺のものだ」とでも考えているのか、無理矢理持ち帰ろうとした客もいたというから驚く。

ニューヨークの店で一番の人気は「赤丸新味」という商品である。旨みを出す味噌、野菜で香り付けした香味油が加わってパンチのある味になっている。

シェフの名前を入れた「平田バンズ」も人気がある。中華マンのようなパンにチャーシューをはさんだバーガーだ。1日に300個も出ることがあり、日本に“輸出”もしている(日本での販売名は博多バーガー)。

来年には2号店、「同じコンセプトの店は出さない」

開店から2年が経ち、今ではリピーターもかなり多い。お客を飽きさせないため、半年から9カ月に一度はグランドメニューを変えている。

毎月、新規メニューを出す試みも続けている。オイスターから出汁を取り、豚骨スープと合わせて、チャーシューの代わりにアンキモを使ったラーメン「潮采」がその1つである。新しいものにチャレンジし、評判を確かめながら、グランドメニューを充実させていくのに活用している。

2011年初めにはマンハッタンにもう一店、出す予定だ。博多豚骨ラーメンではなく、鳥だしをベースにするなど、まったく新しい挑戦になるという。

「同じ店が2つあっても面白くない、今日はこちらの一風堂、また違う日には別の一風堂、というように両店舗を楽しんでもらいたい」。オペレーションマネージャーの島津智明氏はそう語った。

レストラン概要

博多 一風堂ニューヨーク (IPPUDO NY)
65 Fourth Avenue (Between 9th and 10th Street) New York, NY USA
Tel : 212-388-0088
http://www.ippudony.com/index.php
写真提供:IPPUDO NY

2010年9月30日|Posted by 酒井 栄子(フリーライター)