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編集部のマルチスコープ

有名シェフたちがこぞってPR役を買うテキーラ「カーサ・ドラゴン」

ニューヨークの人気レストランはどこも、生き馬の目を抜くようなし烈な競争の渦中にある。そんな人気店のシェフを戦いに向かわせる原動力の1つになっているのが、セレブリティー(有名人)とのつながり。

今回は、ニューヨーク・セレブと人気シェフのつながりを、彼らの内側に入り込み、レポートしてみよう。

私の知り合いにボブ・ピットマンという事業家がいる。音楽専門チャネルMTVの創設者であり、巨大メディア企業であるAOLタイムワーナーの最高執行責任者(COO)だった人物だ。ピットマン氏は2003年にAOLを去ると、投資会社パイロットグループを立ち上げ、インターネット事業などの育成に励んできた。

今年の夏、ピットマン氏から「おもしろいパーティーがあるから招待したい」と誘われた。日差しがまぶしいある日、マンハッタン西側のハドソン川で、そのパーティは開催された。

会場はヨット。乗り込むと、以前この欄でも紹介した地中海料理「「アルデア」のオーナーシェフであるジョージ・メンデス氏の料理が並んでいた。

リチャード・ギアの横にル・ベルナルディンのシェフ

ニューヨーク近郊の避暑地として名高いハンプトンで、真っ白な架設テントを会場にしたパーティーが行われた。俳優のリチャード・ギア、 アーチストのジョン・ボン・ジョヴィらが、ビットマン氏に友人として招待されていた。MTVなど、エンターテインメント業界を育ててきたピットマン氏の人脈の広さを物語っていた。

人気レストランのシェフも多数、参加していた。シーフードフレンチ「ル・ベルナルディン」のエグゼクティブシェフ、エリック・リパート氏に加え、ザガット・ニューヨーク版でナンバーワンにも輝いたことのある「グラマシー・ターバン」のオーナーシェフもおり、彼はパーティーの主役になっていた。

一連のパーティーは、ピットマン氏がテキーラビジネスを始めたことをきっかけに企画されたもの。著名シェフたちは、ピットマン氏が開発したテキーラと自分たちの料理とのコラボを披露するために招待されたのだ。

ネットの次はテキーラ

テキーラ「カーサ・ドラゴン」

3年前のある晩、ピットマン氏はあるパーティーでゴンザレス・ニーブという女性と出会った。テキーラの専門家として認められる「マエストロ・テキーラ」のタイトルを得た最初の女性である。

二人は意気投合。最高のテキーラを作り、売り出すことで合意した。揃ってメキシコまで出かけ、テキーラの主原料である「アガペ(リュウゼツラン)」の産地を探し歩いた。

二人のビジネスが実を結んだのが、2009年7月。二人で作ったテキーラ「カーサ・ドラゴン」が初めて出荷されたのだ。

当初の出荷本数は1万2000本と少なかった。厳選されたアガベを一つひとつ手作業で摘み、透明度を出すためにドイツから輸入した濾過装置を使っていたからだ。

詰める樽は米国から持って行った白オーク。バニラとスパイスの香りが自然につく。

ボトルもメキシコの職人に一つひとつ手作りしてもらった。口の部分に細かいカットが入れられ、ガラスの栓をかぶせると、しっかり閉まる。失われつつあったメキシコの伝統文化を現在に受け継ぎ、伝えたかったという。ボトル1本のコストは50ドルもする。

手作りだけに、1本300ドル前後と高いが、カーサ・ドラゴンは、まず有名シェフたちに受け入れられた。

テキーラとのコラボ料理でセレブをおもてなし

「スカルペッタ」の店内

先のパーティー会場では、このテキーラに似合う料理が振る舞われた。

「リンペロ」や「アルト」といった店を人気レストランにし、予約の取れないことで知られる「スカルペッタ」のオーナーシェフ、スコット・コナント氏はこう話した。

「僕の作るイタリア料理にテキーラが合うだろうかと不安がよぎったけど、このテキーラはワインのような感覚で味わえる。イタリア料理とテキーラの組み合わせを挑戦と言わずに何と言うのだろう」

「最高のテキーラにはら、最高の料理を組み合わせる。それが僕らの役割だ」。コナント氏はすっかりカーサ・ドラゴンのファンになっていた。

スコット・コナント氏

カーサ・ドラゴンは初出荷から約1年。だが、男性セレブ誌「メンズ・ジャーナル」のベスト商品に選ばれたり、著名料理研究家マーサ・スチュアート氏のベストギフトに推薦されたりしている。

一役買ったのが、ニューヨークの人気シェフたちであることは間違いない。もちろん「やらせ」はなく、知り合い同士がノリで、カーサ・ドラゴンの広報役を買って出たと言った方が正しいだろう。セレブと人気シェフ。この親密な関係が、この新たなヒット商品を生み出したのだ。

写真提供:Melanie Dunea(1枚目、3枚目)、Daniel Krieger(4枚目)

2010年12月10日|Posted by 酒井 栄子(フリーライター)