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編集部のマルチスコープ

絶好調、ムジャキフーズの「嫌エネルギー」とは

すっかり生ビールがおいしい季節になってきましたね(ま、季節を問わず、おいしく飲んでいるんですけれど)。

ムジャキフーズ社長・田代隼朗さんの、不況下でも成果を出し続けるパワーの源とは

さて、今回も前回に引き続き、ムジャキフーズ社長の田代隼朗さんのインタビューをお届けします。田代さんの仕事パワーの源は、およそ経営者らしからぬ?!ものでした。どうぞお読みください。

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高柳 腕に自信がある飲食独立希望者たちを相手にビジネスを展開するには、相当なパワーが必要だと思います。この不況下で成果を出し続ける田代さんのパワーの源って、何ですか?

田代 胸を張って言えるようなことは、ないんですけれどね。あえて言うなら「嫌エネルギー」かな。

高柳 イヤエネル…???

田代 好き嫌い、の「嫌」。「嫌エネルギー」。つまり、やりたくないことを拒絶するパワーですよ。こうなったら嫌だということを思い浮かべて、ならないように必死で頑張る。これほど強い力はないと思うんです。

高柳 何となく分かるような、分からないような……。

田代 じゃ、想像してください。急な坂を猛スピードで走ろうと思ってもなかなかできないけれど、何か怖いもの、例えば猛牛に追いかけられたら、必死で走るでしょう。

実は昔、私は田舎で牛に追いかけられたことがあるんです。つながれていると思って、からかっていたら、何とつながれていなかった。で、猛ダッシュ。おそらく、あのときが人生で一番早く走ったと思う。

高柳 あはは。それは、そうかも。

田代 だから、仕事でも同じような発想をしているんです。長く働きたくない、貧しくなりたくない、人に使われたくない……。こうした想像をして、それをバネに必死で仕事をする。後ろ向きだと言われるかもしれないけれど、私は元来「サボリ魔」ですから、こうでも考えないと働かない(笑)。

高柳 田代さんは、ムジャキフーズに来る独立希望者の面接をするとき、どこを見ていますか。

田代 その人が、細かいことに気遣いをできそうかどうか、ですね。器用かどうかということではないんですよ。

これも、具体的に思い浮かべるんです。例えば、この人に、もしカップラーメンを作ってもらったら、どんな風に出してくれるかな、と。相手がフタを閉めて出してほしいと思っているか、はずしてほしいと望んでいるか。はたまた、箸は滑りにくい割り箸がいいのか、普通の箸でかまわないのか、といった具合です。こうしたことを自分なりに想像して、実際にベストな選択をできる人は期待できます。仕事ができる人は、誰でもできそうなことで、そうした細かな工夫や気配りができるかどうかで、たいてい分かるんです。何も、大げさなテストなんてする必要はない。

高柳 分かる気がします。ウチの記者もそうです。編集長が読みやすいように気を使って原稿をプリントアウトしてくる記者と、ぎちぎちに文字を詰めて原稿を出してくる記者がいる。あ、ぎちぎちの原稿を出してくるのは、日経レストランの記者ではありません、念のため(笑)。ただ、私は大変やさしい編集長なので、ぎちぎちに詰めた原稿が出てきても、「この方が紙の節約になる」と考えるようにしています(爆)。

田代 あはは、分かりますよ。あと、私は服装にも厳しいかもしれない。

外食業界は、比較的ラフな服装をしている人が多いのかもしれないけれど、自分を売り込みに来ているのに、もうちょっと何とかしろよと言いたくなるような格好で、面接に来る人もいる。仕事ぶりや人間性に服装は関係ないと思っているのかもしれないけれど、私は違うと思います。本気度が格好に現れると思うんですよ。店できれいな格好をしている人は、きっときちんとした料理を出すし、経営もしっかりしていると思います。自分がどう見られているのかも想像できない人に、いいサービスができるわけがない。

高柳 何も、高いものを着ろと言っているわけではないですね。

田代 そう。真摯な気持ちを見せるために、できる限りのことをしろと言っているんです。できるのにやらない、というのがダメなんですよ。

高柳 耳が痛いなあ。

田代 ウチのビジネスモデルは分かりにくいと言われるんですけれど、吉本興業と芸人の関係に近いかもしれないと思うことがあるんです。吉本興業という会社に所属はしているけれど、自分の芸風や格好などは、芸人が自分で考えるでしょう。別に、会社が考えてくれるわけでも、与えてくれるわけでもない。売れるのも売れないのも、責任は自分にある。それと同じです。だから、ムジャキフーズと契約して店を出そうとする人には、必死でやってほしい。そして、ぜひ成功を収め、幸せになってほしいと思います。

高柳 私も負けないように、明日から猛牛に追いかけられていると想像して、必死で頑張ります。

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田代さんは、仕事中、いつもスーツにネクタイ。ビシッと決めています。そうするようになったきっかけは、起業前の不動産会社の営業マン時代の経験にあるといいます。「当時、周りはみな、怖そうな格好をしていた。自分は普通にスーツを着ていただけなのに、お客さんから『あら、銀行さん』なんて言われて、随分得をした。それ以来、仕事のときはきちんとした格好をするようになった」。

ちょっとしたことが、仕事の成果を左右する――。しばしば指摘されることかもしれませんが、田代さんの話を聞いて、改めてこのことを胆に銘じなければならないと感じました。

【今週のちょいメモ】

先日、大阪から経営コンサルタントの木下尚央之さんが編集部に遊びに来てくれました。木下さんは大手食品メーカーや経営コンサルティング企業を経て、独立。現在、数々の飲食店にアドバイスをしています。この不況下でも、クライアントはほとんど減らないとか。そんな木下さんがこのたび、日経レストランから本を出しました。題して『メニュー戦略の新法則』。「売れない理由は味ではない」と断言する木下さんが、こんな時代にお客を引き付けるメニューの極意を解説しています。ぜひご一読ください。注文はこちらへどうぞ。

2009年6月17日|Posted by 高柳 正盛