「日経レストランONLINE」は、「日経レストラン」の休刊に伴い、3月末日をもって更新を休止することになりました。長らくご支援を賜りました皆様に厚く御礼を申し上げます。

クレーム担当者の奮闘日記

カネで解決せず情報を分析せよ

2008年8月7日

文=水野 孝彦(日経レストラン)
イラスト=蛭子 能収

このコラムでは、架空の外食企業のクレーム対応担当者の日常を通して、最善のクレーム対応を考えていきます。

○月×日 午後
現場の悪習を無くすには

ある外食チェーンの店舗でグループ客の一人が、かなり酔っ払った状態で入店。その後で転倒し、ケガをするというトラブルが発生した。店内で転んだのはお気の毒な話だ。しかし、転倒は店側に過失があるものではなかったから、店側に治療費などを負担する義務はない。

にもかかわらず、そのお客は治療費・慰謝料として何万円かお金が欲しいと店長に申し出た。相手は大人数のグループ客。店長は、ここでお金を支払わないと、悪い噂を流されるのではないかと恐れ、お客様相談窓口の責任者Aさんに電話を掛けた。

「3万円くらい支払えば納得してもらえると思うのですが……」と店長。今ではかなり減ったと思うが以前は、うるさいお客・やっかいなお客には何万円か渡して黙らせる。いわば、「クレームはカネで解決すればよい」という考え方の人は少なくなかった。

その考え方が間違っていると思っていた新任の責任者Aさんは店長にカネを支払うことを許さなかった。「お客様に誠意を示さなければ」と粘る店長を、Aさんは「誠意はカネで示すものではない」と諭した。

この「カネで解決しない」というクレーム対応の方針は当初、現場からの評判が散々だったという。カネを払わないことで交渉が長引けば、エリアマネジャーや店長の負担が増えるからだ。しかし、1年もするとAさんの方針に文句を言う人は、ほとんどいなくなった。

その理由はAさんが現場にとって頼りがいのある存在になろうと努めたことにあった。

例えば、悪質なクレーマーに「訴えてやる」などとネチネチ嫌がらせを受け悩んでいた店長には、「やるべきことをやったなら、『どうぞ訴えてください』と言っていいから」とアドバイスしたり、各店から上がってくるクレーム対応の報告書を見て、気になることがあれば、そのお店に電話を掛け、より良い対応を丁寧に教えるといった地道な努力を惜しまなかった。

無論、経営トップがAさんの考え方を支持してくれていなければ、初期段階の営業サイドの反発を抑えることはできなかったはずだ。

このAさんの経験談は、外食チェーンのお客様窓口の担当者が集まる勉強会で発表されたものだ。Aさんのケースは、劇的な事例だが、クレーム情報が集まるお客様相談窓口の担当者が、現場のスタッフから頼られるようにならなければ、クレーム事例の共有化が図れず、チェーン全体の顧客満足度を底上げすることもできない。

これは私たちにとって古くて新しい問題だ。近日中に再度、話し合ってみることにした。

Next: 言い方一つで印象も変わる

次のページへ
どうしてくれる!? 店長1万人のクレーム対応術

どうしてくれる!? 店長1万人のクレーム対応術

37のトラブルから学ぶクレーム対応術

外食大手23社が磨きあげたトラブル解決の決定版!
よくあるクレームへの対策から悪質なクレーマーの撃退まで、豊富な事例と解決策がこの1冊に。