お客の忘れ物が招く大トラブル

法律面から考えるクレーム対応(後編)

2009年11月12日

イラスト=蛭子 能収

○月×日 セミナーより(4)
忘れ物を預かったら
法的な義務が生まれる

お客がトイレに行くため席を外した間に、席に置いていた貴重品が盗まれた場合、店に責任はあるのだろうか。

答えは、「原則として責任はない」。これは、盗んだお客と盗まれたお客の問題で、店は関係ないからだ。もちろん、従業員が盗んだのならば、店の責任が問われるのは言うまでもない。

では、ありがちなお客の忘れ物を巡るトラブルでは、店の責任はどうなるのだろう。

例えば、あるお客が封筒に入った重要な書類を店に忘れたとする。そのお客が気付いて電話をすると、店で忘れ物を預かっていた。しかし、1週間後にお客が書類を取りに行くと、その後、店員が誤ってサラダ油を掛けたため、書類はベトベトになって、読めなくなってしまっていた。そのお客は「忘れ物をした自分も悪いが、弁償をしてほしい」と、店に告げた─。

このケースでは、相応の損害賠償をせざる得ない。

なぜなら忘れ物を預かった瞬間から、店には「事務管理」と呼ばれる民法上の義務が発生し、預かった忘れ物は委任契約を受けた場合と同様の注意を払って保管しなければならないからだ。お客がわざわざ取りに行くと言っている大切な書類を使い物にならないほど汚してしまうというのは、注意義務を果たしているとは言えない。

忘れ物を預かっただけで、何かあれば損害賠償のリスクが生じるというのは、店にとっては厳しい話だ。だから、甘く考えず、きちんと管理し、適宜、警察に届けるようにするなど、余計なリスクを負わないようにすべきだ。

ちなみに、地震や第三者による失火など当事者の努力ではどうにもならない不可抗力によって、預かった物が破損した場合は、その責任を問われることはない、と聞いて私は少し安心した。

さて、問題は損害賠償として、具体的にいくら払うかだが、裁判で争われるのは、書類が使い物にならなくなったことと、それで生じた損失との因果関係だ。紙代だけ払って済むという話ではない。

例えば、書類が無くなったことで、100万円の利益が生じる契約を失ったなら、その損失にいくらかの慰謝料を加えて、お客は損害賠償を求めてくるだろう。一方、店はそんな損失が書類だけで生じるはずがないといって反論をすることになる。

最終的に、裁判所は法律と社会通念に照らして、お客の要求がどの程度まで妥当かを判断する。

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