
○月△日午後
高級腕時計を
傷つけた?
少額訴訟を受けて立ったのは、相手の主張から考えて、負けるはずがないと判断したからだ。
前述のクレーム客の主張は、身に着けていた高級腕時計に、店員のミスで、伝票をはさむバインダーの金具部分が当たり、時計に小さな傷が付いたので、修理代を払えというものだった。
店長によると、クレーム客が腕時計に傷が付いたと主張する時間帯に、そうしたトラブルは発生していない。クレーム客も、その場ではなぜか店に何の苦情も言っていないことを認めている。後日、電話がかかってきて、小さな傷が付いた腕時計の写真は見せられたが、店で傷が付いたという証拠が一切ない。
念のためAさんは、たまたま同じ腕時計を持っている人に頼んで、クレーム客の主張通りに、バインダーを腕時計にぶつける実験をしてみたが、傷は付かなかった。
そうして、冒頭のようなやりとりを経て、Aさんは簡易裁判所に呼び出された。原告のクレーム客と被告で会社代表のAさんが、それぞれ自分たちの主張を説明し、気になったところがあれば、裁判官が質問する。民事訴訟では原告と被告が話し合って和解することを、裁判官が勧めるのは一般的だ。
しかし、Aさんは相手の主張を少しでも認めて修理代金を少額でも払ったら、「全国の飲食店にとって悪い事例が残る」と、その提案を断った。
約1時間の審理の後、15分ほどの休憩があり、その後、判決が下った。原告の主張は認められず、時計の修理代を払う必要はなく、裁判費用も原告が全額負担するという会社側の完全勝利だった。
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