
さんだ
一番いい牛を回してもらうため、人の三倍は働いたね

石井正敏◎1947年生まれ。ラーメン、とんかつ、カレーなど12種類の専門店の経営を経験。「世界一おいしい黒毛和牛のモツで料理をつくりたい」と1992年に「さんだ」をオープン。
「さんだ」のオーナーシェフ石井正敏は牛の内臓を見事な懐石料理に変えた天才的なマジシャンである。ここの内臓は鮮度が抜群なのだ。
5年ぶりに再開した石井はわたしの顔をしげしげと見つめて「ダメだ。思い出せねえ」と屈託なく笑った。会わないうちに脳梗塞にでもなったのかと心配したが、別にそうでもないらしい。
わたしは5年前と比べて10kgは痩せた。あんなに通い詰め、彼がどれほどハーレーダビッドソンを愛しているかまで熟知しているわたしは少しガッカリしたが、石井の料理は相変わらず驚きを与えてくれた。驚きこそ人生の快楽だと言ったのはアイルランド出身の作家オスカー・ワイルドである。
アキレス腱のポン酢はまるでフグの皮を食べているような錯覚に陥る。ハチノス胡麻和えは軟らかいハチノス(牛の第二胃)にクリーミーな胡麻ダレがしっかりとなじんでいる(ちなみに第一胃がミノ、第三胃がセンマイ、第四胃がギアラ)。
ハツモトは牛の心臓にくっついているコーラの瓶くらいの太い血管のことだが、石井は原形をとどめることなく中華風に味付けしていてコリコリした食感がたまらない。シビレは子牛にしかない胸腺である。焼いて出してくれて脂身の部分がおいしい。
合計12品がコースで出てくるが、各部位を全部言い当てた客はいまだいない。石井は全部当てたらお代はタダにして100万円の賞金を出すと豪語していた。
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