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百年の店、百年の言葉

コントワール ミサゴ

何の店と訊かれたら、「旨い物屋」と答えたいです

2012年5月9日
コントワール ミサゴ

土切祥正◎1976年生まれ。高校卒業後、寿司店で修行。北海道の「ヘイゼルクラウスマナー」、広尾の「ブラッスリーマノワ」などを経て、2010年8月に「コントワール ミサゴ」をオープン

その日、わたしは「コントワールミサゴ」のカウンターに1人で座り、オーナーシェフの土切祥正を相手に料理の話をしていた。

「今年は寒かったせいか、真鴨が一段と美味かったなあ。あと何羽残っている? やっぱり素材がいいものは、塩をかけて素焼きがいちばんだ。おれの鴨にはソースなんてかけなくていいからな」

わたしのところからちょっと離れたカウンターに若いカップルが座っていた。女性の客が男性に小さな声で囁いた。「あの方、オーナーじゃない」すると、土切は「そうです。うちのオーナーです」と言ってお辞儀した。わたしは立ち上がり「いつも御贔屓ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。「こちらこそ、ありがとうございます」と、気持ちのいい返事が返ってきた。

土切シェフは、そんな愛すべきユーモアのセンスに富んでいる。ここではわたしは単なるわがままな客の一人にすぎない。ミサゴの料理はジビエが多い。野鴨の仕入れ先は奥さんの新潟の実家の田んぼである。岳父がシベリアから飛来してきた鴨を網で捕まえてミサゴに送ってくる。だからここの鴨は散弾が入っていない。新潟の米で育った鴨は、土切にとって奥さんの持参金みたいなものである。決して鴨のために結婚したわけではない。結婚してからこの僥倖に気がついた。

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