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百年の店、百年の言葉

くじらのお宿 一乃谷

クジラを次の世代に伝えたい。願いはそれだけです

2012年10月31日
クジラを次の世代に伝えたい。願いはそれだけです

谷光男◎18歳で料理の道に入り、和食店で修業を積み、33歳のときに仙台で開業。クジラを扱うようになって四半世紀になる。

JR神田駅の近くにある「くじらのお宿 一乃谷」を仕切る料理人、谷光男はタダモノではない。23年間、仙台で料理店を営んでいたが、クジラ料理をもっと東京人に知ってもらおうと笈を負って2年前単身で上京した。「食の情報は中央から発信しないと大きな渦にはならない」と考えたからだ。

この店の常連に、発酵学の泰斗で、クジラ食文化を守る会の会長、小泉武夫・東京農業大学名誉教授がいる。69歳の小泉博士はクジラを常食しているので顔はツヤツヤテカテカだが、57歳の谷光男も負けず劣らずツヤツヤして若く見える。

はじめて小泉博士に連れられて「一乃谷」のクジラを食べたとき、わたしは自家製のベーコンにほっぺを落とし、尾の身のおいしさに腰を抜かした。もちろん大好きなさえずり(舌)の味に舌を巻いた。「クジラレバ刺し風」と名付けたクジラの生の心臓のプリプリと心地よい食感に目が眩んだ。

それから「一乃谷」に何度足を運んだことだろう。アメリカはじめ先進国の野暮天どもがクジラの捕獲を禁止してから長い年月が流れ、日本の食卓にクジラ肉が上らなくなって久しいが、日本人は縄文時代からクジラを食べていた。戦前戦後、日本人の貴重なタンパク源でもあった。

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