決断のとき・大庄 社長 平 辰 編
銭湯で背中を流して営業
「お客に“貸し”を作れ。それが接客の真髄」
この6坪の土地に、焼き鳥店「とき」を出店した。平は29歳だった。
「店を開いたらね、お客さんがいっぱい来てくれるものだと、勝手に思っていたんですよ。バンバン来てくれるんだろうなと。ところが全くお客さんが入らないんだよね」。店は“超”のつく赤字。東京の南部・池上の寂れた路地。スナックやバーが並ぶ、その一番奥。「場所も悪かった。その辺りの店で飲んだ人たちが、帰りにおしっこするから、路地がおしっこ臭いのよ」。
「売り上げは1日平均2000~3000円しかなくて、営業すればするほど赤字が増える。鶏肉はアシが早いから、売れ残った肉で作った鶏メシばっかり食べてましたよ。焼き鳥屋を甘くみていたんだね。肉を串に刺して焼けばいいんだろうと。鶏肉問屋に3週間ぐらい通って焼き鳥の作り方を習って、それで店を出しちゃった」。
お客を呼ぶ方法がわからない。そこで、「仕込みが終わると近くの銭湯に行って、入っている人の背中を片っ端から流すんです。『そこの焼き鳥屋です。今度ぜひ店に来てください』って宣伝しながら。ご近所の掃除もしました。道路に沿ってずーっと掃除しながら、あいさつして回るんです」。

写真は「庄や」1号店。(同社パンフレットより)
こうした地道な努力は、じわじわと効いてきた。1人、2人とお客が増えてきたのだ。「ひとり来てくれたら、この人をどうやってもてなすか、そのことで頭はいっぱいですよ。靴も磨いたし、酔っ払ったお客さんを自転車の後ろに乗せて家まで送って行ったりもした。すると、そのお客さんが翌日には家族連れで来てくれるんだよね。“お客さんに貸しを作る”こと。これなんだと思った。徹底して貸しを作る。借りを作っちゃ駄目。ここで接客の真髄を学びました」。
「はい! よろこんで!」のあいさつに表れる「庄や」の接客の精神は、このときに培われた。
また、「係長かなと思ったら『課長さん』、課長には『部長さん』と、ワンランク上の役職で呼ぶ。呼ばれたほうも気持ちがいいでしょ。本当に出世しちゃう人もいましたよ」。こうした平流の接客術がお客の心をつかみ、1年後には連日満席の店になっていた。
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