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ニッポン食材風土記 下仁田葱

2007年11月21日

文=鈴木 裕美
写真=高橋 久雄、海老名 進

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群馬県の南西部、長野県との境にある人口約1万人の下仁田町。
こんにゃくの生産も盛ん

  • 下仁田ファーム 小金沢農園
    群馬県甘楽郡下仁田町馬山3665
    TEL:0274-82-3913(7:00〜21:00)
    http://www.shimonitafarm.com/
  • 下仁田葱の会 TEL:0274-82-5961
    「下仁田葱」2Lサイズ1本120円
    (8:00〜18:00、販売期間12月1〜25日)

晩秋の初霜が降りると
ネギはぐんぐん甘くなる

「下仁田葱の会」の会員、小金沢農園の小金沢章文さん。10月下旬から機械で白根(茎)に土をかぶせる「土寄せ」をする

なだらかな山々に抱かれた群馬県下仁田町。赤城おろしの空っ風から守られるようにして広がる盆地を、川越街道から続く国道254号線が、鮎の泳ぐ鏑(かぶら)川に沿って走っている。

普段、人けのないこのバイパスは、師走の声を聞くころ、にわかに賑わい出す。周辺の農家による下仁田葱の直売所が軒を連ね、年に1カ月ほどの短い旬を味わおうという人々が続々と押し寄せるからだ。

人気の理由は、甘さと軟らかさ。直径5cm近くまで育つこともある太い白根(茎)は、芯の新芽の部分も通常の長ネギより太い。煮焼きして熱を加えると、ここと葉の付け根内側の綿状の部分が白あんのようにとろりと軟らかく、口の中に溶け出す。

早いところは11月から売り始めるが、独特の甘みが増すのは、霜に何度か当てた後。葉の表面に水あめのような水滴がにじみ出すと、甘くなった証拠。葉が少しずつ枯れていき、2~3枚残ったころが収穫時だ。前年の10月に種をまいてからここまで、14カ月近くかかる。

歳暮の贈答品として引き合いが多く、政財界や芸能界の著名人にもこの季節を心待ちにする人は少なくない。200年以上前、すでに江戸の大名が下仁田葱を望んだとされ、「ネギ200本至急送れ、運送代はいくら掛かってもよい」という手紙が残されている。徳川幕府に献上した記録もあり、「殿様ネギ」の異名も取る。

「下仁田葱」はあくまでも品種名で、どこで栽培しても「下仁田葱」を名乗れる。だが、流通量は多くない。下仁田町や、隣の群馬県富岡市などで生産される程度だ。販売期間も限られ、長くても1月いっぱいにとどまる。

土壌を選ぶためだろう。小さな石を含む粘質土でないと、白根のしまりが悪くなる。昭和初期、群馬と長野両県の農事試験場が実験的に栽培したが、群馬県内でも前橋では育ちが悪く、長野県では育ち過ぎて葉が硬くなり、いずれも食べ物にならなかったという。

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