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知っておきたい店情報

“一流クラブの接客”で韓国宮廷料理を提供

オモニ(韓国料理店、愛知県岡崎市)

2006年3月17日

文=吉谷 環
写真=堀 勝志古

シックにまとめられた「オモニ」のエントランス

愛知県岡崎市は、徳川家康の出生地として知られる。人口約37万人の城下町。地場産業の中心は自動車産業で、隣接する豊田市のベッドタウンだ。しかし、かつて賑わった市街地は、大型商業施設の郊外移転の影響で衰退。夜7時には大通りの店も閉まり、人通りもまばら。そうした中、一際賑わいを見せているのが、韓国宮廷料理を看板にする「オモニ」だ。

経営者の朴順南(パク・スンナム)さんは在日韓国人三世。本国でプロの料理人だった祖母、張順玉(チャン・スノッ)さんは日本移住後も、冠婚葬祭や年中行事など方々で宮廷料理を作ることが多かった。孫の朴さんもそれを手伝いながら韓国伝統の味や調理法を体得。岡崎でいち早く韓国の家庭料理や宮廷料理を紹介してきた。


「オモニ」のドアを開けると、チマチョゴリに白いエプロン姿のスタッフが「オソオセヨ」(いらっしゃいませ)と韓国語でお出迎え。韓流ドラマのテーマ曲が静かに流れ、カウンター奥のモニターには日本でも大ヒットした韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」が映る。朝鮮王朝の厨房が舞台の人気番組だ。「オモニ」の制服は、主人公チャングムの女官時代そのまま。店内の調度類や内装も韓国調で、「まるで韓国にいるみたい」とお客が言うのも納得できる。

お客は地元はもちろん名古屋市や県外からも訪れる。月商は600万円。リピーター客も多く、ほぼ毎日来店する常連客もいるほどだ。月3~4回は利用するという夫婦は、「味良し、気分良し、雰囲気良し! とにかく楽しいお店なんですよ」と口を揃えた。

一見すると、韓流ブームに乗った人気と見えなくもない。だが、「オモニ」の繁盛は、確かな「本場の味」を次々に紹介してきた挑戦のたまものだ。

1階席は、1人客も大切にしたいと考えてカウンター席も設けた。 一昨年には卓上で焼いて楽しめるように換気設備を導入し、焼き肉メ ニュー(1200~3980円)を強化。最初の一切れはスタッフが取り分 けたり、野菜で包んでお客に手渡す。店内は若年層から中高年まで幅 広い客層で賑わう

創業は1991年。「おふくろの味 オモニ」として開店し、料理上手の朴さんの母親、洪外先(ホン・ウェソン)さんが店を取り仕切り、評判になった。まだ「韓国料理=焼き肉」のイメージが強かった93年、周辺の競合店に先駆けて「韓国家庭料理」を前面に出し、女性客の取り込みに成功した。

2001年7月には「韓国宮廷料理」を打ち出す。「常々、韓国料理の究極は宮廷料理にあると思っていたから。当時は全国的に、『宮廷料理』を冠にした店はほとんどなかった」と朴さん。代表的な宮廷料理を盛り込んだコース(5000円、8000円、1万円)を取り入れ、今では来店客の半数近くが注文する。

初めて目にする宮廷料理に、お客の期待感も膨らむ。例えば節分などのお祝いの席に欠かせない「九節板」(クジョルパン)。薬食同源を考えた「五味五色」の美しい料理が、お客の歓声を誘う。スタッフによる料理の説明は、韓国食文化のミニレクチャーのようだ。

店から車で10分のところに畑を持ち、エゴマの葉やニラ、青唐辛子など韓国野菜を自ら栽培する凝りよう。春にはスタッフを連れて山へ山菜摘みにも出掛け、食材として使う。

目指す接客は銀座の一流クラブ

小麦粉の生地に山海の具材を包んで食べる「クジョルパン」(写真左奥)、牛肉と大根、帆立、海老などの具が入った鍋「シンソンロ」(左中央)などを組み込んだ宮廷コース(写真は8000 円コースの一部)

牛ホルモンと餅を辛味噌で煮込んだ鍋「ホルモンチョンゴル」(2980 円)は人気メニュー


昨年、ドラマ「チャングム」が日本でも大ヒットし、急速に韓国宮廷料理が注目された。これが追い風になり、団塊世代を含む中高年客が急増。昼に1万円のコースを楽しむ主婦層もいる。珍しさに加え、600年ほど前の宮廷料理は辛くなく食べやすい。「栄養バランスを考えた韓国料理は、美容や健康に良いという認知が高まったのが人気の要因」と朴さん。今年はさらにコース料理を強化するつもりで、月商20%増を目指している。

「オモニ」の繁盛を決定付けたのが、接客だ。「親切で丁寧」「温かくて居心地がいい」と評判に。スタッフの接客に感動し、思わずチップを渡すお客もいるほどだ。「美味しいのは当たり前。ただ食べて満足、だけでは帰らせません。うちは決して飲み屋ではないけれど、銀座の“一流クラブの接客”を目指しています」(朴さん)。

合言葉は「お客様の5分先の行動、気持ちを読め」。例えば、食事が終わりそうなお客は、次に「手をきれいにふいて、口の中もさっぱりしたい」と思うはず、と気付けば、空いた皿を下げ、おしぼりとお茶を出そうと思い当たる。

毎日の朝礼では、昨日の反省と今日の目標を各人に発表させる。さらに「朝まで生大会」と呼ぶ会議は月1回、閉店後、朝まで続く。今年1月は、年間目標や四季のイベント、メニュー開発を議題に朝5時までみっちり話した。

スタッフは社員3 人、アルバイト7 人。手前左が朴さん

加えて、朴さんを含む全員が、年間マニフェストを作る。常に目的意識を持つためだ。「店長になります」「季節感あふれる料理を追求して実行」など、今年も各人の決意が厨房に張り出された。「全員クリアしてますよ。だって実行違反は罰金ですからね」と笑う朴さんだ。

お客へのフォローも念入り。宴会利用客には翌日、テーブル担当者がお礼の電話を掛ける。法人客なら、1週間後に朴さんが自ら出向いてお礼を言う。昼は営業に走り回る朴さん。週3回は新規開拓も含めた事業所まわり。さらに地元商工会議所など地域活動にも積極的に参加し、町の活性化のための料理教室の講師も精力的に請け負う。

こうした姿勢は経営哲学でもある「オモニ三原則」の表れ。「相手良し、自分良し、世間良し。肝に銘じ行動するべし」。お客様に喜んでもらうことで、自分も幸せになる。売り上げや給料を得て納税し、地域活動で社会に還元するからこそ、世の中が回るという考え方だ。


創業から15年。決して順風満帆ではなく、大きな苦境は2度もあった。「おふくろの味 オモニ」時代に、母親が店に立てなくなり、売り上げがピーク時の半分まで落ち込んだ。借金をして内装を一新、韓国家庭料理を打ち出して苦境を打破したが、国内のBSE発生、続く不況で02年には再び危機に。朴さんの士気も落ち込み、スタッフのやる気も削がれた。この時はスタッフの総入れ替えという荒療治で盛り返した。「10歳の頃から夢見た飲食店経営ですから、『あきらめない』『信念をもつこと』で乗り越えてきました」。

来年には名古屋に進出し、より本格的な韓国宮廷料理の専門店を出す予定だ。「韓国の伝統芸能と共にゆったりくつろげ、癒される店に」と考えている。「韓国をもっと知ってほしい。料理も伝統文化も伝えたい」。この思いの強さこそ、朴さんが夢を次々と実現してきた原動力なのだ。

店舗DATA

愛知県岡崎市本町通3-48
TEL:0564-28-0878
URL:http://www.omoni-ok.jp
1991年3月開業●店舗面積/40坪(上下階で132m2) ●収容可能人数/400人●営業/11:30~14:30(水~日のみ)、17:00~24:00 定休日・月曜日(祝日の場合は営業)●客単価/昼1000円、夜4000円●月商/600万円●経営/朴順南


※この記事の情報は、2006年3月現在のものです。変更されている可能性がありますのでご注意ください。