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知っておきたい店情報

黒毛和牛のしゃぶしゃぶが人気の和食店

たわら屋(和食店、静岡県菊川市)

2006年6月9日

文=吉谷 環
写真=中川 素男

一番人気の「しゃぶしゃぶ たわら屋厳選黒毛和牛」(3500円)。先付、しゃぶしゃぶ、野菜盛り合わせ、ご飯またはうどん、デザート付き。野菜は長野県産の減農薬有機栽培

静岡県中西部に位置する菊川市は人口5万人弱。昨年、菊川町と小笠町が合併して誕生した地方都市だ。市の東側には日本一の茶どころ、牧之原台地。南側には遠州灘を望む。

JR東海道本線の菊川駅から車で5分程走ると、田んぼと宅地が混在する中に、地元で話題の「たわら屋」が出現する。特徴的な真っ黒な箱状の店舗。20台分ある駐車場は、ランチタイムも夜も、ほとんどいっぱいになる。典型的な“田舎の繁盛店”だ。


人口の移動に着目
幅広い需要をつかむ

オープンは2004年10月。わずかな間に月商は750万円を超え、さらに右肩上がり。それには理由がある。

実は「たわら屋」周辺はバイパスが通って宅地開発が進み、市内他所から人口が流入。地方の小都市ながら人口が増えている区域だ。「たわら屋」の曽根弘生社長にとって幸運だったのは、曽根社長の知人がこのエリアで割烹を経営しており、そこでは客単価が9000円に達するお客も少なくないと耳にしていたこと。飲食店にとって立地は命。和食の調理人として修業し、独立を考えていた曽根社長は、「ココしかない!」と、出店を決めた。

特徴的な外観

とはいえ、立地を生かすも殺すも経営者の腕次第。曽根社長が巧みだったのは、「田舎で成功するツボ」をしっかりと押さえたことだ。

一つには、幅広い客層、利用動機に対応できる懐の深さ。しかも「何でも屋」に陥らず、特徴づけもしっかりしている……。そんな店作りのために曽根社長が選んだのが、しゃぶしゃぶだった。「しゃぶしゃぶは老若男女を問わず人気がある。でも、市内にはしゃぶしゃぶを食べさせる店がなく、車で30分かけて浜松に出かけていた」。

今、「たわら屋」では、夜は7割のお客がしゃぶしゃぶをオーダーする。一番人気は黒毛和牛を使った3500円のコース。牛肉は、近江牛(コース5500円)、松阪牛(同1万5000円)も選べる。

豚肉も、静岡県内の奥浜名湖で放牧して育てた「竜神豚」(同2500円)や、沖縄産「やんばる島豚」(同3200円)など銘柄豚を用意。さらに、「山菜しゃぶしゃぶ」や「たらばしゃぶしゃぶ」「豆乳しゃぶしゃぶ」など、季節性や話題性を加えた期間限定メニューでお客を飽きさせない。

女性客にダントツ人気の「旬菜弁当」(2800円)

女性客からの支持を決定付けたのが、和食の技を生かした「旬菜弁当」(2800円)だ。主役は、色鮮やかな9種類の口取りを盛った小鉢を竹カゴに見栄えよく並べたもの。提供時には和紙をかぶせて中を見せずに運び、お客の目の前で紙を外すと、思わず歓声が上がる。

このカゴ盛りに先付、茶碗蒸し、冷菜、小鍋、自然薯とろろご飯、味噌汁、香の物、デザートが付く。内容は月替わりなので、これを目的に毎月通う女性客が後を絶たない。さらにデザートも充実。「和カフェ」メニューを揃え、客単価アップにつなげている。

ここまでは料理面の仕掛け。曽根社長にはもう一つ、自慢がある。接客サービスだ。

「ファミリーが相手でも、我々がファミリーレストランのサービスをしていてはダメ。『料理を出して終わり』ではない、プラスαの接客をしよう」。

曽根社長はそう口を酸っぱくしてスタッフに言い聞かせている。全体的な接客レベルはまだ発展途上の感は否めないが、初めて来店した女性客は「丁寧で親切。お料理の説明でも、作り方まで教えてくれるのね」と感心しきり。

「店の自慢は接客力」
女性パートの知恵生かす

お客の空気を読むのが上手な長田ゆかりチーフ。リピート客に毎日、礼状を書く。意識してフレンドリーな言葉遣いで書いている

接客は女子高校生から主婦層まで、すべて女性が担当。その中心になるのが、パート勤務の2人の女性スタッフ。曽根社長の両腕と言っても過言ではなく、「たわら屋」の原動力だ。

長田ゆかりチーフは、昼は自ら営む喫茶店で働き、夜は「たわら屋」に入る。着物姿も板についた女将的存在だ。山本隆子さんは飲食業の経験はないが、オープンしてすぐに「たわら屋」で働き始め、主にランチタイムを切り盛りする。

2人は自ら接客をし、後輩を指導するだけでなく、曽根社長とのミーティングでは、「『たわら屋』はお客にとってどういう存在になるべきか」「売り上げを伸ばす方策は」などの課題を与えられ、レポートを提出する。

例えば、女性客に人気の高い「旬菜弁当」が月替わりである点に着目。注文したお客にスタンプカードを発行し、毎月の来店につなげるなど、2人の発案で成功したアイデアも多い。

チーフの長田さんは、「客単価が約3500円ですから、家族で来店すればそれなりの出費になる。3500円という貨幣価値に対して麻痺せずに、感謝の気持ちを忘れずに仕事をこなす日々です」と話す。

ほかの接客スタッフも、「このお料理、どうやって作るの?」といった主婦ならではの質問に答えられるように、事前の試食会で調理長からレクチャーを受ける。

毎日、手書きの礼状
小さな心遣い忘れず

このほか、女性スタッフならではの心遣いがあちこちに見受けられる。

例えば、新規客や「たわら屋」のポイントカードを持つリピート客が来店すると、手書きで礼状を書く。アルバイトが書く礼状を含めると、店全体で1日30通にもなる。

礼状の中には、接客時に交わした話題を必ず織り込むことが暗黙のルール。だから、接客スタッフは積極的にお客と会話しようと努力する。お客の間にすぅっと座り込んで自然に会話を交わすのは、男性スタッフにはなかなかできないことだ。

こうして書いた心づくしの礼状に、お客から返事をもらうことも珍しくない。最近では、「上京していく娘と最後の食事に」という家族が来店。早速、礼状を送ったところ、その母親から返信があった。

「自分では言えなかった『寂しい』という言葉を代弁してくれて、ありがとうございました」。

接客中、長田チーフは自らの体験談から、残された側の寂しさを、娘さんに何気なく語っていたのだという。その後、その家族は娘さんが帰郷するたびに来店してくれるようになった。

また、「おたくの“あいちゃん”からハガキをいただいたけど、どの子かしら?」と言って来店してくれるお客もいて、アルバイトが署名入りで礼状を送るメリットも多いそうだ。

曽根社長は、接客面をパート2人にほぼ全権委任し、自らは厨房を指揮しつつも、常にホールに目を配る。時には来店客が食事を終えてから今日が誕生日だと分かり、花屋にダッシュして花束を購入。お客の帰り際ぎりぎりでプレゼントしたことも。当分、「根性と気力」をモットーに、休みなく働く日々が続きそうだ。


店舗DATA

静岡県菊川市加茂1900-8
TEL:0537-37-0535
2004年10月開業●店舗面積/165.3m2(約50坪)●客席/75席(座敷51席 テーブル席24席)●営業時間/昼11:00~15:00、夜17:00~22:00●定休日/年中無休●月商/750万円 ●損益分岐点/550万円●坪月商/15万円●客単価/昼2200円、夜4500円●原価率/36%●客席回転数/平日1回、休日1回転半●経営/こうよう樹


※この記事の情報は、2006年4月現在のものです。変更されている可能性がありますのでご注意ください。