
讃岐うどんを関西風にアレンジ
釜あげ饂飩 唐庵(讃岐うどん、大阪府茨木市)
文=源川 暢子
写真=上原 勇

「海老天おろしうどん」(冷・温、1050円)。天然の有頭ホワイトタイガー、エノキ茸、大葉の天ぷらをダイナミックに盛り付けた人気商品。天ぷらは、高価だが胸焼けしにくい米油でカラリと揚げている。夏場は写真の冷たいうどんが好評だ
東の「そば」に対して、西の「うどん」と言われるように、関西にはうどん文化が深く根付いている。それだけに、関西人のうどんへの思い入れは深く、味の評価も厳しい。
そんな“うどん激戦区”、しかも郊外にあって、この5月までは平日はランチタイム3時間だけの営業(土日祝日は夜も営業。6月からは平日の夜も営業開始)だったにもかかわらず、月商約400万円という人気店にのし上がったのが、大阪府茨木市の「釜あげ饂飩 唐庵」である。
本格的な讃岐うどんの店として、評判の高い「唐庵」。最寄りの南茨木駅から、徒歩で約30分の住宅地にありながら、平日はサラリーマンや主婦、土日祝日には家族連れやカップルといった幅広いお客で賑わう。連日、開店と同時に36席の店内は、ほぼ満席に。時には、開店前から店の外で入店を待ちわびるお客の姿も見られる。
店内は、手打ちうどんの魅力をアピールするオープンキッチン。営業開始と同時に、うどんを次々にゆでる大釜からは湯気が立ちのぼり、厨房、ホールともに手を休める暇もないほどの忙しさだ。うどんの売れ数は、平日で約240食、休日は約350食にもなる。
讃岐うどんの「原体験」が
独立開業を支えるパワーに
「唐庵」がオープンしたのは、2002年の3月。折りしも、関西では讃岐うどんブームが巻き起こる直前である。

開店と同時に、36席の店内はほぼ満席となる。平日は、サラリーマンや主婦、土日は家族連れやカップルの姿が目立つ。小さい子供を伴って来店するお客も多いため、子供用の椅子や取り皿も用意している
その頃、勢力を伸ばしつつあったのが、本場・讃岐スタイルを踏襲した麺に関西風のだしを融合し、具材や提供法でバリエーションをつけた、いわば“関西流讃岐うどん”を提供する店。「唐庵」もそういった店の1つだ。
本場の讃岐うどんといえば、セルフサービスでファストフード的な印象が強いが、同店では具材や盛り付けの工夫などで視覚的な演出もプラス。洒落たスタイルに仕上げた。“進化系”の讃岐うどんが、人気を呼ぶポイントとなっているのである。
店主の唐渡義仁さん(37歳)は、大阪出身。もともとフランス料理店やイタリア料理店で洋食の修業を積んだ料理人で、8年ほど前、実家の酒販店を継いだ後に「唐庵」の開業に踏み切った。その経緯には、讃岐うどんに対する強い思い入れがあったという。
「祖父が高松出身だったので、子供の頃から毎年墓参りの帰りに行きつけの店でうどんを食べるのが楽しみでした。ツルッとしたのど越しと、しっかりとコシのある麺に生醤油をかけて食べる。あれは鮮烈なカルチャーショックでしたね」と唐渡さん。それまで食べていた柔らかいうどんとは、まったく印象の違う讃岐うどんの味は、唐渡さんの原体験となって心に刻み込まれたのだ。
のどで味わう麺と関西だし
食べ飽きないうどんを追求

ツルッとしてモチモチ感があり「のどで味わう」うどんを目指した。オーストラリア産の小麦粉に、水と沖縄の塩を合わせて練り、熟成、足ふみといった工程を経て10人分ずつのうどん玉を作っておく。麺は営業日の朝に打ち、5時間ほどで使い切る
「あの、讃岐の手打ちうどんを、大阪に持ってきて商売がしたい」──。その思いで実家の酒販店を廃業することを決意。讃岐うどん修業を志して、単身、高松に向かった。
高松での修業は3年。その間、有名店である「五右衛門」と「はりや」で働く機会を得た唐渡さんは、さらに決意を新たにする。「何のツテもなく乗りこんだのに、自分の理想とする店で働くことができたのはラッキーとしか言いようがない。しかも、『はりや』のオーナーは、私が毎年食べに行っていたうどん店に勤めていた方だった。“これは何としても頑張らなあかん”って久々に燃えましたね」。
唐渡さんにとって、まさに“運命”ともいえる讃岐うどんとの出合いは、開業4年を経た今でも、「唐庵」を支える強い原動力となっている。
讃岐うどんで、まず語られるのが麺の魅力。「表面がピカッと光っていて、ツルッとのど越しがよい。モチモチとしたコシがありながら硬すぎず、毎日食べても飽きない味」と、唐渡さんは麺の特長を表現する。香川県で“モーニング”といえばうどんのことだそうで、1日に何杯も食べることも珍しくない。その日常的な“うまさ”を追求したのが、「唐庵」の麺なのである。 そのために、唐渡さんが選んだのはオーストラリア産の小麦粉。「いろいろ試した結果、讃岐うどんの、“のどで味わう”滑らかな食感を出すには、これがいちばんでした。国産に比べて作業がしやすく、価格が安定していることも店にとって強みです」という。
何度も熟成を重ね、“足踏み”工程で鍛えたうどんは、まさに唐渡さんが子供の頃に食べた歯ごたえそのもの。店を訪れる常連客も、「麺が美味しいから通いつめたくなる」と、口々にいう。
本場の魅力とこだわりメニューの
相乗効果で“関西流”を表現
また、麺の旨みを引き立てるだしも「唐庵」の人気要素である。「関西は、だしを重要視する。讃岐うどんで勝負しようと考えたとき、麺以上に苦労したのがこの部分」(唐渡さん)。関西に比べると、讃岐のだしはかなり塩気が強い。オープン当初は、お客から「辛い」と言われたこともあり、地域性に合わせて試行錯誤を繰り返した末に、現在の味にたどりついた。鰹、利尻昆布にいりこを加えただしに、3種類のかえしを用意して、メニューによって使い分ける。
「唐庵」は、多彩な商品構成も特長のひとつ。うどんメニューは、オーソドックスな「生醤油うどん」(600円)をはじめ約30種類。一般的な讃岐うどん店と比べると、かなりメニュー数は多いが、海老天、野菜かき揚げなど具材のバリエーションは、幅広いお客を掴むポイントだ。
人気の高い「海老天おろしうどん」(1050円)は、天然のホワイトタイガーを、「黒毛和牛の肉うどん」(1150円)には長崎産の和牛、「かしわ天うどん」(880円)には、伊予赤鶏を使用するなど、素材のこだわりもメニューの付加価値を高めている。「唐庵」が、平均1000円前後という、うどん店としては高い客単価を維持できるのも、こうした魅力あるメニューを打ち出してきたからだ。

左上 「おにぎり」(1個、120円)。男性客や家族連れに人気の高いおにぎりは、梅、鮭、高菜の3種類。1日に40~50個出るという。提供時にパリッとした海苔を添え、お客が自分で巻いて食べるスタイル
右上 「野菜かき揚げうどん」(890円)。野菜かき揚げは、主婦を中心とした女性に人気のメニュー。塩分を控えめにしたマイルドな味わいのだしは、関西風を意識して試行錯誤の末に生まれた
下 「おでん」(1串、120円)。本場の讃岐うどん店で定番のおでんも、メニューに取り入れた。うどんを注文した後、セルフサービスで思いおもいの串をとり、ビールと一緒につまむといったお客が多い
また、うどんに加え、セルフサービスのおでん(1串120円)や、おにぎり(120円)などのサイドメニューも「唐庵」の人気商品となっている。
“うどん店におでん”というと、違和感があるかも知れないが、実は本場の讃岐うどん店では定番メニューである。瀬戸内海が近く、じゃこ天などの練り物が特産というのが理由のようで、「うどんができるまでの間、お客が自由におでんを取ってきてはビールと一緒につまむ」という光景がよく見られるという。
これも、「自分がずっと親しんできた讃岐うどんを、大阪でも再現したい」と考えた唐渡さんが、こだわったことである。
実際、おでんは平日で約80串、休日は約200串も出るほどで、“まずビールとおでん、シメはうどん”という光景は、「唐庵」でも定番となりつつある。
本場の讃岐うどん店の「真髄」に、だし、具材のこだわりといった“関西らしい”エッセンスを加えたことが、「唐庵」の最大の魅力。常連客の中には、1日2回訪れるお客や、同じメニューをずっと注文し続けるお客もいるそうで、うどん好きの関西人の心をしっかりと掴んでいるようだ。

店頭では、入店を待つお客が行列を作る
「うどんは生き物」という唐渡さん。天候や気温、湿度などによって塩分量も変えなくてはならないし、仕上がりもその都度違うため、コンスタントに均質な商品を提供するのは難しい。
「常に手をかけてあげなくてはならないのがうどんの楽しさ。その場の人気だけではなく、うどんの魅力を分かってくれるお客様と、長いお付き合いをしていきたい」という言葉には、讃岐うどんにかけるまっすぐな心意気があふれている。

店舗DATA
大阪府茨木市真砂2-12-1
TEL:072-634-3366
月商/420万円●店舗面積/32坪(105m2)●席数/36席●坪月商/13.1万円●客単価/平日900円、休日昼1000円、夜1300円●原価率/25%●営業時間/11:30~14:30、17:30~20:00(土日祝日は21:00まで)、月曜、第3火曜定休(祝日の場合は営業、翌日休み)
※この記事の情報は、2006年7月現在のものです。変更されている可能性がありますのでご注意ください。
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