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知っておきたい店情報

野菜料理をメインにした居酒屋

菜食庭 心(居酒屋、宮崎県宮崎市)

2006年11月17日

左上:「まるごとトマトの和風煮」(450円)。和風だしで蒸し煮にし、とろろ昆布をトッピング/右上:「ズッキーニのグリル 2種類の胡麻で」(650円)。オリーブオイルでソテーし、トウガラシゴマとニンニクゴマをたっぷり塗って/左下:「なすのさっぱりサラダ」(500円)。新鮮なナスを水にさらして千切りにし、ミョウガや大葉とともにサラダ仕立てに/右下:「ゴーヤと温泉玉子のガッツリサラダ」(500円)。温泉玉子を溶いて食べる。塩もみしたゴーヤーが、さらに食べやすくなる。お皿はすべて黒か白。野菜をきれいに見せるためだ

九州・宮崎といえば、地鶏モモ焼きを看板にした居酒屋が数多く立ち並ぶ激戦区。そんな中、“野菜居酒屋”という珍しい業態を立ち上げ、1坪当たり月商20万円をコンスタントに売り上げているのが「菜食庭 心」。地元Uターン組の寺原大介氏が2004年2月、29歳で開いた店だ。

場所は宮崎市中心街の裏手に広がる飲食店街の一角。ファサードは板塀で覆われ、わずか20cm四方の小さな看板と、背の低いくぐり戸があるのみ。外観だけでは一見客は入りにくい、知る人ぞ知る隠れ家的な店だ。意を決して扉を開ければ、「こんばんは、いらっしゃいませ」という明るい声とともに、ウナギの寝床のように奥深い店内からスタッフがさっと駆け寄り、温かく迎えてくれる。

野菜不足を解消し
野菜の美味しさ再発見

ウナギの寝床のように細長い店内。20代~30代のお客が中心で、女性客が多い。カウンターには野菜や果実、豆などが並ぶ。吊り下げたバナナを指差して「バナナのデザートが食べたい」という突然のリクエストにも笑顔で対応

鶏や魚介、豆腐などを主食材に打ち出した居酒屋はあるが、野菜をメインに据えた店は珍しい。ターゲットは、自分のために自由にお金を使え、健康にも気を使う世代、つまり20代後半以上の女性客。これが、当たった。

「野菜をたくさん食べられるので、お気に入りのお店。月に2回は来ます」「野菜の種類も多いし、ヘルシーだから好き」(20代の女性2人組)。

狙い通り女性客の支持を得て、客層はクチコミで広がっている。一方、「一人暮らしなので、ここで野菜不足を解消してます。野菜が肴でも、酒も飲めますよ。しかも胃にもたれない」と言って通う若い男性客も珍しくない。

赤ワインで野菜料理を楽しんでいた常連の女性客は、こう指摘する。「ここは、野菜の美味しさを再発見させてくれるお店。春菊を生で食べられるなんて、最初はびっくり。知らない料理法がたくさんあるんですね」。

メニューブックには、野菜を使った料理がずらりと約70品並ぶ。価格は450~600円が中心で、高くても750円。

扱う野菜はトマト、カボチャ、ネギ、レンコンなど、常時20種類以上。メニューは野菜の種類別に分け、各々の栄養的効能とともに2~4品ずつ。

「宮崎産オクラの豚巻きインド風」や「水菜と豚バラのあったかハリハリ煮」、「春菊と本日のお刺身サラダ」など、肉や魚も一部使うが、主役はあくまでも野菜。また、豆や果実、海藻など、健康に良いとされる食材は野菜以外でも積極的に使っている。

人気メニューの一つ、「まるごとトマトの和風煮」は、湯むきしたトマトを丸ごと、和風だしで蒸し煮にした。「ナスのさっぱりサラダ」は、水にさらした旬のナスを香味野菜と和えたもの。宮崎県が生産量日本一を誇るピーマンは、「ピーマンのコンビーフづめオーブン焼き」「ひとりじめピーマン塩焼きドッサリかつお節」に。特産のゴーヤーも、揚げチップスやサラダ、チャンプルー、味噌焼きといった具合に、野菜を様々な調理法で楽しめる。お客の要望で、コースメニューも設けた(2500円、3000円、3500円)。

だが、手の込んだ料理では決してない。1皿に使う野菜は原則2種類まで。

「野菜はこんなに美味しいんだっていうことを伝えたいから、創作料理的なものやサプライズな調理法ではなく、あくまでシンプルな料理を心掛けてます。大事にしているのは、子供にも安心して食べさせられること。家庭料理の延長といってもいい」(寺原氏)。

調理法自体はシンプル。でも、一般家庭ではなかなか思いつかない野菜料理。そこがまたお客の興味をそそり、 飽きさせないポイントでもある。

「地方都市で成功するには常連客をしっかりつかまえ、再来店してもらうこと。それには飽きないメニュー開発は必須条件」(同)と、お薦めメニューは3~7日の頻度で変えていく。

客単価(約3000円)は、地元の居酒屋の平均値(約2500円)より高め。「野菜料理は軽いので、いつもよりもう一品多く食べられる。その分がプラスαされるんだと思います」(同)。

離れて知った地元の魅力
周囲の反対押し切りスタート

毎日、野菜直売所「百笑村大塚」(経営JAこばやし)へ。新鮮な地物野菜が揃い、新作や伝統野菜などにも出合える

寺原氏の実家は、宮崎市内の業務用酒販店。東京の大学を卒業後、大手酒類メーカーに就職。赴任先の名古屋で居酒屋担当として、食材探しやレシピ提案をする仕事に携わった。仕事の一環として料理学校にも通い、調理の基礎を学んだ。

また、多くの繁盛店を訪れ、中部国際空港内の飲食店など大型案件にもかかわった。この経験が、今に生きている。実はこの名古屋時代に野菜居酒屋に出合い、「面白い業態だなぁ」と記憶したのだという。

「いつか自分の店を」という夢を叶えるため、サラリーマン生活は3年で終止符。とある居酒屋チェーンから声が掛かり、800席の大型ビアホールの店長に。飲食店で働くのは初めてだったが、わずか3カ月で1億3000万円を売り上げた。多忙な店長業務をこなし、マネジメントを学んだ。

半年後、地元に戻り、実家が経営する居酒屋を任される。その後、足掛け4年半、自分の店の事業計画を練り上げていった。

「どうせ店をやるなら市内にはない業態を」と、ずっと考えていた。寺原氏自身、地元を離れて初めて知ったことだが、宮崎はとれない野菜がないほどの野菜王国。その地元野菜に着目し、野菜を前面に打ち出そうとした。

「野菜だけでは絶対無理」と周囲は大反対。だが、寺原氏には「絶対やれるはず」という自信があった。

野菜は毎日、自ら仕入れに出向く。開店当初は業者任せにしていたが、納得ができる品質や価格でなかったため、必ず自分の目で選ぶことにした。今年4月には、日本ベジタブル&フルーツマイスター協会のジュニアマイスターの資格を取り、野菜の目利きにさらに磨きをかけている。

子供を保育園に送り、波のコンディションがよければ海でサーフィンをした後、午後、店から20分程離れた野菜直売所へ。ここで新鮮な旬の地物野菜を仕入れる。現在、使う野菜の6~7割が地元産。旬のものなので仕入れ値も安い。おかげで原価率は25%前後に納まっている。

さらにもう1軒、マイスター資格者がいて品揃えが他店より格段にいいという地元のスーパーマーケットへ。ここでは、地元では時期的に手に入らない、産地リレーで仕入れた定番野菜を購入する。

野菜居酒屋の評判は広がり、今では生産者が「調理法を教えて」と農産物を持ち込んでくるほど。また、地産地消の推進に力を入れる行政からイベント協力を依頼されるなど、地元に頼りにされる存在になってきた。

スタッフは笑顔で選ぶ
夢は宮崎の活性化

「菜食庭 心」の名前通り、店内には坪庭が

「菜食庭 心」の魅力は野菜だけではない。「接客もすごく感じがいいから、また来たくなる」「気遣いがいい」と、接客の評判もすこぶる高いのだ。何より、スタッフの顔に、ここで働くことが楽しくて仕方がない様子が見える。

寺原氏が採用時に一番重視するのは笑顔だ。「面接で笑えない人は、お客様の前でも笑顔になれない。接客においても『裏表のない“素”』で行きたいから、笑顔を大切にします」。

オーナーの寺原氏自身、仕込み中も営業中も変わらぬ笑顔を見せていた。取材で同行した野菜の仕入先でも、店長やパートの女性など多くの人に声を掛けられる人気ぶりだ。

一方で、「この店で自分の家族を食べさせていくと同時に、スタッフも食べさせ、育てていかなくてはなりません」と、経営者の顔も見せる。現場が好きだから将来も現場を離れることはないと言いつつ、次の業態開発もそろそろ考えているようだ。

さらに、飲食業の枠を越えたその先にも、やりたいことがあるという。

「まず、ここ宮崎で、飲食店で働くことの楽しさを伝えたい。飲食店、とりわけ居酒屋の地位向上を目指したい。そして、最終的には宮崎の活性化を……」と真剣に考えているのだ。宮崎にUターンして飲食店を開いている仲間たちとともに、きっと“何か”をやってくれる気がする。


店舗DATA

宮崎県宮崎市中央通6-24
TEL:0985-27-7333
2004年2月開店●月商/240万円●店舗面積/12坪(39.6m2)●客席/23席●坪月商/20万円●客単価/3000円●原価率/25%●損益分岐点/210万円●客席回転数/2回転●営業時間/17:00~翌2:00(L.O.翌1:30)●定休日/月曜日●経営・有限会社プロヴィデンス(宮崎市、寺原大介社長)


※この記事の情報は、2006年9月現在のものです。変更されている可能性がありますのでご注意ください。