
「食の安全」を問うアメリカ映画が公開
2月16日、ユーロスペースほか全国順次公開

アメリカの大手ハンバーガー・チェーン「ミッキーズ」の牛肉パテから糞便性大腸菌が検出された。この事実が公になることを怖れた社長は、幹部のドンに命じ、コロラド州コーディにある精肉工場へ調査に行かせるが・・・。
飲食店の関係者ならドキッとするようなエピソードから始まるアメリカ映画『ファーストフード・ネイション』が、2月16日からユーロスペース(東京・渋谷)でレイトショー公開される。2006年のカンヌ国際映画祭・コンペティション部門に出品された話題作だ。昨年から立て続けに起きる食品の賞味期限偽装や食肉の偽造事件、先日起こった中国製餃子による健康被害など、食への不安をかきたてるニュースが連日報道されているが、日本のみならずアメリカでも、食に対する問題意識がここ数年高まっているようだ。

原作はファストフード産業の実態を告発し、世界20カ国で発売され140万部を超えたノンフィクション『ファストフードが世界を食いつくす』(エリック・シュローサー著、草思社)。ユニークなのは、原作はノンフィクションなのに、映画はフィクションであるところだろう。ドキュメンタリーではなくドラマにしたことで、イーサン・ホーク、アヴリル・ラヴィーン、グレッグ・キニア、そして“世界一運の悪い奴”でお馴染みのあの大物俳優も顔を見せるなど、豪華なキャスティングが可能になり、より幅広い観客層に訴えるように作られている。
もっとも、ファストフードの内幕を告発する映画だと思って観ると、期待を裏切られるかもしれない。この映画は犯人探しをする映画ではないし、映画が進むにつれ、話はどんどんファストフードそのものからは離れていく。この映画は、「原作の背後にいる人間を見据えたドラマ」なのだ。物語は、アメリカに入国するために命を懸けて砂漠を横断するメキシコ人たちの話になり、移民たちが劣悪な労働条件で働く精肉工場の話になり、「ミッキーズ」の店舗で働く学生たちの話になる。ファストフードに関わりながらも、全く交わることのない様々な階層の人々を淡々と描いていく。
映画のより詳しい背景を知りたい方には原作を読むことをお勧めしたい。例えば、アメリカでは主に貧困家庭の子弟たちがファストフードで働く。それは家計を助けるためというよりも、アメリカ郊外の広い土地に必需品である車を買うためだ。月に300ドル近く維持費がかかる車のために、部活動などはせず、夜遅い時間まで働いて、翌日疲れきって学校に来る生徒たちは、勉強に身が入らずに高校を辞めてしまう。もちろんファストフード産業だけのせいではないだろうが、コロラド州のある高校では入学時に約400人いた生徒が、卒業する頃には半数に減っていくと書かれている。また、アメリカでは、飲食労働者の少なくとも6分の1が英語を第2外国語としており、そのうち約3分の1は、英語をまったく話さない。特にその割合がファストフード業界で高いという。
本作を見て、移民の問題など日本の現状とはかなり違うと感じる人がいるだろうし、いや、近い将来日本も同じような状況になるかもしれないと危機感を持つ人もいるだろう。また、飲食の現場にいる人なら、生産の現場での不正に気付きながらもそれを告発すべきか迷うドンの姿に共感する人もいるかもしれない。
本作の監督リチャード・リンクレイターは、「この映画が自分の食物連鎖に関係している知らない人々について考えさせるきっかけになったら」と語っている。先日の中国製餃子の事件は、皮肉にも私たちが何気なく食べている食品が、どこで、誰によって、どうやって作られ、どのようなルートをたどって私たちの食卓に上るのかを教えてくれた。本作はハンバーガーを通してそれを教えてくれる。本作がこの時期に公開されるのは、ただの偶然なのだろうか。映画の中で起きていることと、今私たちの国で現実に起きている出来事とを比べて、食べるということを改めて考えさせてくれる作品だ。
ストーリー
ハンバーガー・チェーン「ミッキーズ」の牛肉パテから大腸菌が検出された。この事実が公になることを怖れた社長は、幹部に命じてコロラド州コーディにある精肉工場へ調査に行かせる。そこの精肉工場ではメキシコからの移民たちが劣悪な労働環境で働かされていた。一方、店舗では高校生のアルバイトたちが遊ぶお金のためにアルバイトに励む。ファーストフードを中心に描かれる様々な人間関係から浮かび上がる実態とは・・・。
■『ファーストフード・ネイション』2月16日、ユーロスペースほか全国順次公開
c2006 RPC Coyote,Inc.
監督:リチャード・リンクレイター
2006年アメリカ・イギリス映画・108分
配給:トランスフォーマー
公式ホームページはこちら
(吹田 恵子)
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