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野菜を巡るホントウの話

野菜が無個性になったワケ

2009年7月7日

今や夏でもホウレン草は普通に手に入る。しかし、20年前までは、冬にしか食べられない野菜だった。というのも、当時日本で栽培されていたホウレン草は東洋種。東洋種は、暑さに弱く、夏の栽培には適していなかったためだ。

年中どこでも作れる
F1品種の功罪

しかし、たくさん収穫できる時期より、旬を外した時期に出荷した方が市場では高く売れる。そこで生まれたのが、暑さには弱いが味が良い東洋種と、味は劣るが暑さに強い西洋種を掛け合わせたF1(雑種第1代)のホウレン草だ。

異なる形質を持つ親を掛け合わせると、メンデルの法則により、その第1代の子(F1)には両親の形質のうち優性だけが現れる。また、丈夫な子が生まれやすい。このためこうしたF1のホウレン草は、病気や暑さに強く年中どこでも作れるほか、形が揃いやすい、多収穫などの特長を持ち、今や市場の大半を占めるようになった。

ホウレン草に限らず、現在市場に出回っている農産物のほとんどは育種(生物の遺伝質を改善して作物の新しい品種を作り出すこと)によって出来たもので、特に近年目立つのがF1だ。F1品種の普及で、農産物の安定的な生産や大量生産が可能になり、世界の食糧飢餓はかなり改善された。その意味で、F1の功績は非常に大きい。しかし、全国各地で栽培可能になったせいで、旬の感覚が薄らいだり、各地で古くから栽培されてきた個性ある地方野菜が消えつつあるのも事実だ。

冬でもF1ホウレン草が全盛
大根も青首一辺倒に

大根だけで地方品種は60以上もあるのに……

例えばホウレン草は最近、本来の旬である冬でさえF1を栽培するため、従来に比べ味が落ちるケースが増えてきた。大根も、非常に辛い辛味大根や、直径が10〜15cmもある三浦大根など色々あるが、現在市場に出回っているのは、青首大根一辺倒。辛みが弱くて万人受けする、大き過ぎないので収穫がラクといった理由からだ。

農村文化交流会発行の「地方野菜大全」(2002年)によると、現存する地方野菜は20科69種556品種。これらの中には、入手不可能なものや、栽培農家が非常に少ないものもあり、年々地方品種は衰退・消失しつつある。

もちろん、京野菜をはじめ地方野菜復権の動きはある。しかし、安定供給や形を揃えるのが難しいため敬遠する外食企業が意外に多い。個性的な味の生かし方を知らないがゆえに、「この野菜はまずい」「大き過ぎて使えない」とあきらめるケースも目に付く。地方野菜と共に発展した各地の郷土料理を研究するなど、食材だけでなく食文化に目を向ける必要があるだろう。

中村 敏樹氏

農業コンサルティング会社社長。国内外の生産技術に通じ、農家の指導や外食向けの食材コンサルティングを行う。日本ベジタブル&フルーツマイスター協会講師