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野菜を巡るホントウの話

「旬の先取り」は薬漬け農業の元

2009年9月15日

秋はキノコ類、春は山菜と旬の味を楽しみ、四季を感じられることは、「食」の大切な要素の一つ。しかし最近は、「この野菜の旬はいつ?」と聞いても、「ハテ?」と首を傾げる人が多くなりました。旬が分からないくらい年中、野菜や果物が出回っているからです。

なぜ旬はなくなってしまったのでしょう? 原因の一つは、行き過ぎた旬の先取りです。私は仕事柄、よく外食関係の方に、「旬の先取りをしたい」などと相談されますが、こうして先取りを繰り返すうちに、いつが旬かが分からなくなってしまいました。

また、生産する側の農家が、旬を外すことをポイントに置いて栽培しているという事情もあります。収穫量が多く、高値の付かない旬の時期よりも、収穫量の少ない時期に出荷した方が高く売れる。だから旬を外すというわけです。

旬か旬でないかで
味や栄養価は全然違う

ホウレンソウの旬は冬だが、夏に栽培する農家も多い。こうした時期外れの栽培が農薬の多用に結び付く

しかし、旬を先取り、あるいは外した栽培には、様々な弊害があります。

まず、旬の食材と比べ、ほとんどの場合、味や栄養価の面で劣るということです。野菜や果物は、自然の恵みを受け、最も環境の整った時期に栽培してこそ、美味しくなり、栄養分も豊富になります。一方、旬でない時期に出荷するにはハウス栽培など人為的なコントロールが必要となり、植物が自然に育つ環境でないことから、当然美味しさや栄養にも影響が出るのです。

例えば、春の訪れを告げるタラの芽は、4月中旬~5月中旬が本来の旬ですが、現在市場に出回っている大部分はハウス物で、12月頃から出荷が始まり、旬の頃には飽きられている状態。天然物は抗酸化成分であるポリフェノールをかなり含み、独特の風味を楽しめるのに対し、ハウス物は、温度・湿度を上げた促成栽培をするため、ポリフェノールの含量が少なく、風味も味も薄いものになります。

野菜も同じです。枝豆はハウス物が6月頃には出荷されていますが、値段が高い割に味は薄く、8月下旬以降に出回るものに比べて味が劣ります。

また、年中出回っているため季節を感じにくいのですが、ホウレンソウの旬は実は冬。夏場は高値になるため、大変な労力をかけて夏に栽培する農家も沢山ありますが、夏のホウレンソウのビタミンC含有量は、冬物のわずか3分の1。旬か旬でないかで、こうも違うのです。

旬を外すと農薬使用量も増加
「中国産より国産」は迷信!?

また、旬を外すと農薬の使用量も増えます。植物を旬以外の時期に育てる場合はハウス栽培が中心で、自然の環境とは違う温度・湿度・光で育てます。当然、植物には様々なストレスがかかるため病気が発生しやすくなるほか、時期を問わず同じ植物を栽培し続けることで害虫も付きます。薬漬けの農業になるのです。

お客様の中には「中国産の野菜は農薬漬けで、国産野菜が安全」と思っている人が多いようですが、これはとんでもない思い違い! 旬を外し、ハウス栽培などに頼った日本の農業の方がどれだけ農薬使用量が多いことか……。農薬の使用を減らしたり、農薬の少ない食材を選びたいなら、正しい旬を知り、旬真っ盛りものを使うことが一番の近道かもしれません。

中村 敏樹氏

農業コンサルティング会社社長。国内外の生産技術に通じ、農家の指導や外食向けの食材コンサルティングを行う。日本ベジタブル&フルーツマイスター協会講師