
社会保険の適用拡大で飲食店の赤字が拡大する
田沼千秋 グリーンハウス社長
1975年、野村證券入社。77年、同社退社、グリーンハウス入社。81年、グリーンハウス取締役に就任、グリーンハウスフーズ代表取締役社長に就任。93年、グリーンハウス代表取締役社長(現任)に就任。2005年、ホーワス・アジア・パシフィック,ジャパン取締役会長CEO(現任)に就任、現在に至る。日本フードサービス協会理事を務める
政府は、パートへの社会保険の適用を拡大する方向で法案の議論を進めています。厚生年金・企業健保の加入条件を現在の週30時間以上の勤務から20時間以上へと拡大するという内容です。
今国会で法案が成立すれば、2013年中にも施行される見込みです。2014年と2015年に消費税率を上げる法案も検討されています。外食離れによって、苦しい環境にある我々の業界にとって、この時期の社会保険の適用拡大は大きな打撃です。外食業界は、一致してこの法案に反対の声を上げなくてはなりません。
厚生労働省は当面、従業員300人以下の企業で働くパートへの適用を猶予するという報道がありました。しかし、我々は条件闘争しているわけではないのです。増加している非正規労働者に社会保険の適用を拡大するという政府の方針を全面的に否定するものではありません。2008年にリーマンショックがあり、外食市場がようやく回復してきたところへ、東日本大震災が発生しました。こういう時期に、外食業界にさらなる重荷を負わせないで欲しいというのが本音です。
政府は、当初、新たに400万人に社会保険が適用されると試算していました。その場合、企業の追加負担は6000億円。そのうち外食業界の負担は、外食企業の売上高の1%を上回る約3000億円と見ています。黒字の外食企業でも、営業利益率は1%程度のところが多いので、追加負担は利益額にほぼ相当します。
この負担の増加によって、赤字に転落する飲食店が多数でてくると予想しています。2010年度決算では、上場外食企業91社のうち33社が赤字でした。法案成立によって、さらに営業利益率が1%程度以下の18社が赤字に転落する可能性も出てきます。外食業界では、2 ~3カ月で辞めてしまうパートが多いので、社会保険への加入、脱退の手続きが頻繁に発生し、事務手続きにかける手間も飲食店を苦しめます。
飲食店が閉店に追い込まれると、そこに勤めていた多くのパートが失業します。そうなれば、消費への悪影響が懸念されます。私は、社会保険適用拡大によって、外食以外の業界も含めて約100万人程度が失業すると見込んでいます。その結果、消費は減退し、現在の外食産業の市場規模は、約24兆円から3兆円ほど減るのではないでしょうか。このまま強行実施されれば、業界は、立ち直れないほどの深刻な影響を受けることになるでしょう。
業界全体には、大変厳しい話ですが、一方で、個人店にとってはチャンスかも知れません。地元に密着して、独自の料理や質の高いサービスを提供している店であれば、多少メニューを値上げしても、お客はそれほど離れないと思います。大手外食チェーンは、価格競争に勝ち残るため、コストダウンと値下げをぎりぎりまで進めてきました。保険料の負担分を価格に上乗せするのは難しいでしょう。個人店は、今からでも料理とサービスの質を高めていけば、生き残りの可能性が高まるはずです。
写真=室川イサオ
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